砂糖依存症 批判的レビュー

砂糖依存症

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/08 21:40 UTC 版)

批判的レビュー

European Journal of Nutritionに2016年に掲載されたレビューでは、裏付けとなるエビデンスの不足から砂糖依存症の概念は科学的に説得力がなく、公共政策の推奨事項に組み込むことを反対している。 研究のほとんどが動物実験によるものであり信憑性からは程遠く、薬物依存症に重要ないくつかの要素(用量の概念など)が評価されていないことが指摘されている。 人間は砂糖を単独で消費することがほとんどないためデータが不足しており、また甘い食べ物を摂取することでの行動や神経の影響についての文献は砂糖依存症に対してあまりにも間接的すぎるとしている[2]

甘味のメカニズム

砂糖の主成分であるショ糖(Sucrose, スクロース)は、ブドウ糖(グルコース)と果糖(フルクトース)で構成され、果糖がおいしい甘さをもたらす[3]清涼飲料水に使われる「高果糖コーンシロップ」のような異性化糖は、果糖55%、ブドウ糖45%の割合で健康への影響はショ糖と同様とされる[3]。この糖分は「果糖ブドウ糖液糖」と呼ばれる。

動物実験と考察

砂糖に対する「依存症」という定義は臨床研究が不足しており医学的コンセンサスが得られていない[2]1998年、キャサリン・デスメゾンズは、脳でのオピオイドμ受容体の活性により引き起こされた生理状態について砂糖依存症の概念を提唱した[4]。デスメゾンズは、砂糖が鎮痛剤として作用しモルヒネブロッカーから遮断することができたことを示す先行研究[5]に基づき、砂糖はDSM IVで概説されていた他の薬物依存症と同様の依存関係があると指摘した。その後、動物実験が行われデスメゾンズによる仮説を補強する結果が得られた[1][6]プリンストン大学のバード・ホーベルは、砂糖がほかのドラッグに対するゲートウェイドラッグ(入門薬物)として機能する可能性に注目し、砂糖の神経科学的な作用を研究した。

2008年の研究「砂糖依存症のエビデンス:砂糖の断続的で過剰な摂取による行動的・神経化学的影響」において、砂糖が脳内ドーパミンオピオイドに作用し、依存症となる可能性があることが動物実験で観察され、「乱用」「離脱症状」「渇望」「交差感作」の四つの過程において行動主義的に砂糖乱用が強化因子として作用することが薬物依存との比較を通じて考察された [1]神経の適合は、ドーパミンオピオイド受容体の結合、エンケファリンmRNAの発現と側坐核におけるドーパミンとアセチルコリンの放出の変化を含んでいる。

リーア・アリニエーロ(Leah Ariniello)は、砂糖依存症とラットの実験について、以下のように述べている[6]

近年のラット実験は、砂糖とドラッグの共通点を示している。薬物依存は一般に、薬物摂取の増大、摂取停止からの離脱症状、薬物への渇望と摂取回帰という三つの段階を経由する。砂糖を投与したラットも同様の行動をとった。実験では、餌を与えずに12時間経過してから砂糖水を与えた。周期的な過剰摂取(乱用)によって摂取は増大し、倍加した。餌の停止またはオピオイド遮断によってラットは歯ぎしりや震えといった、薬物中毒者と同様の禁断症状を発症し、再発の兆候も示した。ラットへの砂糖水投与をやめると、砂糖水の出るレバーを何度も押すようになった。

砂糖関連の企業が行った実験では、ラットに対してカロリーゼロの甘味料投与によって類似作用が報告されている[7]

砂糖と甘味は、脳のβエンドルフィン受容体の部位を活動させる刺激となるが、これらはヘロインモルヒネを摂取した際に惹き起こされる反応と同じものである[要出典]

摂食障害との関連

心理学者は、これらの研究によって過食症診断の基準を確立させることができると主張するが、それよりも砂糖を乱用薬物と同じカテゴリーとみなして用いるよう注意すべき結果といえる。彼らは、食物摂取量と依存症を支配するシステムの間になんらかの重複があると信じているが、ある特定の食物に依存性があるとはまだ明確に述べることはできていない[要出典]。もし定期的な摂取を停止したあと、乱用するようであれば、甘い食品への依存とすることができ、これは神経性大食症のような摂食障害と関連する可能性を示唆している(上記引用したラット実験)。

一般的に依存症に分類されるには、再現性のある「二重盲検」の実験によって、以下の3つの過程の観察データを提示する必要がある。

  1. 摂取量が増加する行動パターンと神経伝達物質の変化
  2. 欠乏時の神経伝達物質の変化と離脱症状の兆候
  3. 離脱症状後の再発と渇望の兆候

2003年、国際連合が委託した世界保健機関国際連合食糧農業機関委員会の報告では、砂糖は健康的な食事では10%以上を占めるべきではないと定められた[8]。砂糖を使った製品の生産に従事する業界団体であるアメリカ砂糖協会(The Sugar Association)は、「飲食品の砂糖の含有率は25%までは安全」と主張しているが、タフツ大学が発表した以下の研究結果とは矛盾する。

プリンストン大学の砂糖依存症研究では、一般に市場で人が入手している炭酸飲料水と同程度の25%の割合の砂糖水をラットに投与したところ、一ヶ月でラットは甘い飲食品への依存症状を見せるようになり、通常の餌よりも砂糖水の摂取を選ぶようになった。 - タフツ大学 Health & Nutrition Letter[7]

  1. ^ a b c d Hoebel BG; Rada P; Avena NM (2008). “Evidence for sugar addiction: behavioral and neurochemical effects of intermittent, excessive sugar intake”. Neuroscience and Biobehavioral Review 32 (1): 20–39. doi:10.1016/j.neubiorev.2007.04.019. PMC 2235907. PMID 17617461. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2235907/. 
  2. ^ a b c Margaret L. Westwater; Paul C. Fletcher; Ziauddeen (2016-06-02). “Sugar addiction: the state of the science”. European Journal of Nutrition (Springer Nature) 55: 55-69. doi:10.1007/s00394-016-1229-6. 
  3. ^ a b c d e f g リッチ・コーエン「砂糖の誘惑、その甘くない現実」ナショナル ジオグラフィック2013年8月号、日経BPnet,2013年8月8日。
  4. ^ Kathleen DesMaisons, Ph.D. (1998). "Potatoes Not Prozac." Simon & Schuster. ISBN 141655615X
  5. ^ Blass, E., E. Fitzgerald, and P. Kehoe, Interactions between sucrose, pain and isolation distress. Pharmacol Biochem Behav, 1987. 26(3): p. 483-9. PMID 3575365.
  6. ^ a b (Leah Ariniello, Brain Briefings, October 2003)
  7. ^ a b Tufts University Health & Nutrition Letter.New York:OCT 2002. Vol.20, Iss.8; Pg.1,3pgs. Media reports of sugar being addictive were inaccurate and speculative
  8. ^ WHO/FAO release independent Expert Report on diet and chronic disease(WHO)
  9. ^ Sugar: The Bitter Truth - YouTube
  10. ^ Robert H. Lustig, Laura A. Schmidt and Claire D. Brindis (2012年2月2日). “VOL.482 NATURE, P27 The toxic truth about sugar”. Nature. 2019年10月15日閲覧。
  11. ^ Taubes, Gary (2016). The Case Against Sugar. New York City: Alfred A. Knopf. ISBN 978-0307701640 
  12. ^ Fung, Jason (2016). The Obesity Code: Unlocking the Secrets of Weight Loss. Canada: Greystone Books. ISBN 9781771641258 


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