猪肉 成分とその変化

猪肉

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/19 08:17 UTC 版)

成分とその変化

イノシシ家畜化したブタと同じ部位を比較すると、水分ミネラルタンパク質は猪肉の方が豚肉より多い[26]。一方で脂肪ビタミンB1は豚肉の方が多く、特に猪肉の脂肪はばら肉でも約12%と、豚肉の半分以下である[26]。また、体重が30kg未満の個体の肉は、それ以上の体重の個体に比べて加熱後も柔らかく肉汁の量が多いという特徴がある[27]

屠殺後、猪肉中のタンパク質は酵素などの作用によって代謝される[28]。この際、屠殺後の温度が高いほどグルタミン酸の生成量は多くなり、また冷蔵保管すると時間の経過とともにグルタミン酸が増加する[28]。一方で、イノシン酸は5°C以下で冷蔵すると3 - 4日後まで増加し、その後は減少に転じる[28]。このため、屠殺後に外気温で放置するとグルタミン酸は豊富だがイノシン酸が極度に少なくなり、冷却した方が両者の相乗効果によってうま味が増す[28]

夏季のイノシシは栄養状態が年間で最低の状態にあり、秋季から堅果類を食べると状態が改善されて、初冬までにかけて脂肪の蓄積量が増える[29]。また、年ごとに異なる堅果類の採取可能量や種類によってもイノシシの栄養状態は影響を受け、クヌギなどのコナラ属より脂肪含有率の低いスダジイなどシイ属の実が主な食料となる場合は、猪肉の脂肪量は低下する[29]

猪肉に含まれる水分は夏からに捕獲されたイノシシの肉が最も少なく、冬に捕獲されたものが最も多い[30]。また、加熱後の肉汁の量も冬季のものが最も多く、一方で硬さを表すせん断力は夏季のものが最も高い[30]。すなわち、冬季に捕獲した猪肉はジューシーで柔らかく、夏季の猪肉は硬くて脂肪含有量も低いという傾向がある[31]。冬季の猪肉は高価格だが夏季は需要が少ない日本の市場の傾向は、肉質の特性を反映していると考えられる[31]


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  21. ^ 壁谷英則、佐藤真伍、丸山総一、野生動物の食用利用と人獣共通感染症 『日本獣医師会雑誌』 Vol.69 (2016) No.5 p.277-283, doi:10.12935/jvma.69.277
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  23. ^ ローストしたクマ肉を食べて旋毛虫症に 日経メディカル 記事:2018年11月2日
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  40. ^ 四方康行, 今井辰也 & 鄒金蘭 2008, p. 31
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  44. ^ a b 石垣長健 et al. 2007, p. 23
  45. ^ 水原道子 et al. 2002, p. 194


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