潜水艦 動力

潜水艦

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/27 14:24 UTC 版)

動力

原子力

ロシアタイフーン型戦略原子力潜水艦。世界最大のサイズを持つ潜水艦である。

第二次世界大戦後に急速に発達した原子力技術を駆使して誕生したのが原子力潜水艦である。吸気も燃料補給もなしに極めて長期にわたり駆動する、潜水艦には理想のボイラーたる原子炉の登場により、潜水艦の水中速力は大きく上がり、可潜時間は数ヶ月にまで増えた。

原子力潜水艦は有り余る出力を生かして海水を電気分解し、艦内へ常時新鮮な酸素を提供する。このため、原子力潜水艦は「世界一空気が綺麗」と言われるほど艦内は快適である。しかし、超微量の放射線漏れは絶えずあり(特に艦外)、米軍の乗員は放射線被曝線量測定バッジをつける。

常に蓄電池の残量を気にしながら定期的な浮上を必要とする通常動力型潜水艦に比べ、「無限」の航続力を持ち氷の下の北極海すら航行可能である。

原子力推進は、原子炉冷却水循環ポンプや、蒸気タービンによるブレードや減速ギアの騒音が発生するので、潜行中の動力を蓄電池と電動機にて賄う通常動力艦よりも静粛性に劣る。構造上原子炉冷却が常時必要だが、ヤーセン型のように自然循環冷却であれば、ポンプ音はしない。高速回転する蒸気タービンの軸出力で低回転のスクリューを回すためには減速装置として減速ギヤを介在させる必要があり(ギアド・タービン方式)、この減速ギヤが大きな騒音発生源となる。この騒音を解消するためフランス海軍の全原子力潜水艦は蒸気タービンで発電機を動かして電動モーターでスクリューを駆動する原子力ターボ・エレクトリック方式による推進システムを採用している。この方式であれば減速ギアは必要ない。

また、建造に要する技術的水準や建造費、維持費が高く、保有できる国は限られる。日本などは技術上の問題の他、必要性や原子力に対して否定的な世論の存在により保有していない。

通常動力

イランのGhadir級ミゼット・サブマリン。世界最小級のサイズを持つ潜水艦である。

潜水艦の最も一般的な動力はディーゼルエンジンであり、現在の潜水艦の大半はディーゼル潜水艦である。潜航時は吸気が不可能なので、電動機を使用する。潜水艦は、登場以来長らくディーゼル機関と電動機を併用していた。

ディーゼル潜水艦の動力方式には直結方式ディーゼル・エレクトリック方式がある。直結方式はディーゼル機関、電動機(発電機兼用)、プロペラを直結したもので、水上航行時にはディーゼル機関を、水中航行時は電動機で航行する。ディーゼル・エレクトリック方式は、水上航行時はディーゼル機関で発電機を回してその電力で電動機を動かし、水中航行時は蓄電池の電力で電動機を動かす。前者は水上航行時に高速が出せるが充電効率が低かった。そのため、潜水艦の水中航行が主流となった第二次世界大戦以後は、充電効率に優れる後者が主流となった。

蒸気機関

ディーゼルエンジンの代わりに石炭ボイラー蒸気タービンを搭載した蒸気潜水艦も、かつては造られた。英海軍のK級潜水艦や「ソードフィッシュ」などである。蒸気機関はディーゼル機関よりも高速が出せたが、煙突の収納や機関の始動に時間が掛かり過ぎるので主動力として普及しなかったがフランスのMESMA等AIPにその原理が応用されている。

AIP機関

かつてのディーゼル潜水艦は定期的な吸気と充電を必要とするディーゼル潜水艦は、原子力潜水艦に比べれば水中行動力に劣り、潜航時はほとんど動けなかった。やがて、蓄電池や電動機が高性能化しても、水中行動力が劣ることに変わりは無かった。このため、外気を必要とせず、更に長時間潜航状態で駆動可能な推進機関、即ちAIP(非大気依存推進)機関が必要とされてきた。

第二次世界大戦期のドイツでは、ヴァルター・タービンを搭載したヴァルター潜水艦XVIIB型UボートやXXVI型Uボートが試作された。また、ソ連では閉サイクルディーゼル機関を搭載したケベック型潜水艦が建造されたが、いずれも安全性に難があり、実用化には至らなかった。時が経過し、スウェーデンのゴトランド級スターリングエンジン式の非大気依存型機関を搭載した潜水艦が実用化された。電池式AIPは島山安昌浩級ラーダ型たいげい型などで使用される。


注釈

  1. ^ 上記文でも述べられているフォークランド紛争中盤、イギリスの潜水艦に巡洋艦を沈められたアルゼンチン海軍はそれ以上の艦艇の損失を恐れてそれまで外洋に展開させていた海上部隊(空母含む)を本国の港に帰還させ、以降紛争終結まで海上作戦をとることはなかった[4](詳細は「フォークランド紛争#航空・海上優勢を巡る戦闘」を参照)。もっともイギリス海軍はこの一件で制海権をほぼ確保できたとはいえ、アルゼンチン空軍シュペル・エタンダールA-4スカイホークに代表される攻撃機の空襲、唯一外洋に展開するアルゼンチン艦となった潜水艦「サン・ルイス英語版」に悩まされることになる。
  2. ^ かわぐちかいじの漫画『沈黙の艦隊』の英題も「The Silent Service」である。
  3. ^ IDAS (ミサイル)#潜水艦発射の対空ミサイルキロ型潜水艦#概要UボートVII型#バリエーションを参照。
  4. ^ 一般にシャワーはあるものの、浴槽はスペースと水の関係から無いことが多い。

出典

  1. ^ トム・クランシー 1997, p. 246 - 328.
  2. ^ a b トム・クランシー 1997, p. 16
  3. ^ 山内敏秀 2015, p. 4.
  4. ^ アルフレッド・プライス、ジェフリー・エセル『空戦フォークランド ハリアー英国を救う』江畑謙介(訳)、原書房、1984年、73頁。ISBN 4-562-01462-8 
  5. ^ 学習研究社 2001, p. 10.
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