強誘電体メモリ 強誘電体膜の材料

強誘電体メモリ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/12 01:56 UTC 版)

強誘電体膜の材料

FeRAMに用いられる強誘電体の材料には以下のような性質が要求される。

大きい残留分極
小さなキャパシター面積で大きな分極反転電流を実現してメモリセル[注釈 1]アレイ部分の回路レイアウトにおいて高密度化を実現できる
低い比誘電率
分極反転しない場合の変位電流を低減して読み出しエラーを避けられる
低い抗電界
低電圧駆動に拠る省電力化
小さいリーク電流
電源を切っても室温で10年間以上に亘る残留分極(データ)保持(リテンション[注釈 3])特性
小さい分極反転疲労(ファティーグ)[注釈 4]特性
10年程度の動作保証性を実現するための目安として1012回(理想的には1015回)以上の分極反転に耐えられる
小さいインプリント(刷り込み)[注釈 5]特性
書き込みエラーを減らせる

なお、インプリント[注釈 5]や分極反転疲労[注釈 4]及びリーク電流は強誘電体膜内部の結晶粒界結晶欠陥に起因する。

上記の条件を満たす材料として、下記の様な、従来の半導体製造プロセスでは使用されていないセラミック材料が存在する。これらの多くの強誘電体材料では、分極が容易な軸の方向に沿った異なる2つの分極状態を利用してデータの書き込みや読み出しを行っている。言い換えれば、強誘電体結晶の多くは、結晶の対称性によってその分極状態の数は限られている。

PLZT

(Pb,La)(Zr,Ti)O3

  • 他の分野での実用化が進んでおり、成膜方法のノウハウが蓄積されている。
  • 残留分極量が、配向に依存して25μC/cm2から100μC/cm2と大きく、高密度化に適している。
  • 結晶化温度が550と低く、集積回路の半導体製造プロセスと相性が良い。
  • 人体に有害なが含まれているため、環境基準に対応できない。
  • 高温処理に耐えられる白金などを電極に用いると疲労現象[注釈 4]が著しくなり、107回以下の分極反転で残留分極が顕著に減少する。ただし、IrO2などの電極材料を用いた場合は1012回以上の分極反転にも耐えられる。

本材料系では、従前、分極ドメインのナノ構造化に拠って分極が容易な軸の方向が結晶の対称性に束縛されず軸が自由に回転することが既に示されている。これは記録密度が従来に対して2桁増大するという可能性を示している。 そして、2014年に、その分極自由回転状態の書き込みと読み込みの実証が報告されている[4][5][6]

SBT

SrBi2Ta2O9(タンタル酸ビスマスストロンチウム)

  • 抗電界が、PZTの60kV/cmなどよりも、40kV/cmと小さく、低電圧駆動させられる。
  • 電極材料に依らず、高い疲労[注釈 4]耐性を持ち、1012回以上の分極反転に耐えられる。
  • インプリント現象[注釈 5]が起き難い。
  • 強誘電性を得るためには700℃以上の高温で結晶化させねばならない。
  • 残留分極を持つa軸方向に薄膜を成長させ難い。
  • 残留分極量が25μC/cm2と相対的に小さい。

BLT

(Bi,Ln)4Ti3O12 Ln=La, Nd, Pr, etc.

  • 残留分極量が配向に依存して10μC/cm2から50μC/cm2と比較的大きい。
  • Biに対してLaを10%から20%程度添加すると、疲労現象[注釈 4]を抑制できる[7][8]
  • 600℃という低温で形成できる[9]
  • 配向を制御して結晶化させ難いため、現状では残留分極量が小さく抗電界が高い。

注釈

  1. ^ a b c d e データの最小単位である1bitを保持するために必要な回路
  2. ^ なお、ChainFeRAM東芝商標である。
  3. ^ 時間経過しても残留分極を維持し続ける事
  4. ^ a b c d e 分極反転を繰り返すと残留分極が減少していく現象
  5. ^ a b c 電場に因って、分極率-電圧特性が経時的にシフトする現象(同一方向に複数回パルス電圧を印加した後では逆方向のパルス電圧を印加しても1回では完全分極反転し難くなる。)
  6. ^ ゲート長の最小寸法をFとした時のセルサイズ。なおEEPROMでは40F2以上である

出典

  1. ^ Cypress Semiconductor has acquired Ramtron International Corporation” (英語). 2014年3月7日閲覧。
  2. ^ 強誘電体メモリ「FeRAM」への呼称変更のお知らせ” (2022年6月28日). 2024年3月3日閲覧。
  3. ^ 新不揮発性メモリChainFeRAM」(PDF)『東芝レビュー』第56巻第1号、東芝、2001年1月、51-54頁。 
  4. ^ “Deterministic arbitrary switching of polarization in a ferroelectric thin film”. Nature Communications 5 (Nature Publishing Group) (4971). (2014-09-18). doi:10.1038/ncomms5971. http://www.nature.com/ncomms/2014/140918/ncomms5971/full/ncomms5971.html. 
  5. ^ 強誘電体メモリー、超高密度化に道』(PDF)(プレスリリース)東北大学、2014年9月19日http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press_20140919_02web.pdf 
  6. ^ “東北大、強誘電体メモリの記録密度を大幅に向上させる可能性を示す”. マイナビ. (2014年9月22日). https://news.mynavi.jp/techplus/article/20140922-a305/ 
  7. ^ “Direct observation of oxygen stabilization in layered ferroelectric Bi3.25La0.75Ti3O12 (PDF). APPLIED PHYSICS LETTERS (American Institute of Physics) 91 (062913). (2007-09-10). doi:10.1063/1.2768906. http://scitation.aip.org/deliver/fulltext/aip/journal/apl/91/6/1.2768906.pdf?itemId=/content/aip/journal/apl/91/6/10.1063/1.2768906&mimeType=pdf&containerItemId=content/aip/journal/apl. 
  8. ^ (PDF) Direct observation of oxygen stabilization in layered ferroelectric Bi3.25La0.75Ti3O12. 理化学研究所. (2007-09-10). http://www.spring8.or.jp/pdf/en/res_fro/07/056-057.pdf. 
  9. ^ FeRAM用新強誘電体薄膜の低温成膜に成功』(プレスリリース)富士通、2001年3月30日http://pr.fujitsu.com/jp/news/2001/03/30-1.html 
  10. ^ FRAM搭載LSIがFeliCa方式ICカードに採用』(プレスリリース)富士通、2006年11月7日http://pr.fujitsu.com/jp/news/2006/11/7.html 


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