強誘電体メモリ 構造と動作原理

強誘電体メモリ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/12 01:56 UTC 版)

構造と動作原理

FeRAMのセルにはキャパシターが用いられており、この意味においては、DRAMと基本的に類似したセルである。しかし、このキャパシターの板間の材料には強誘電体が用いられているという点で、FeRAMはDRAMとは大きく異なる。

メモリセル[注釈 1]構成としては、FeRAMには大きく分けて2種類が提案されている。具体的には、強誘電体キャパシター(C)とメモリセル[注釈 1]選択用のMOSFET(T)を組み合わせる1T1C型キャパシター型)と、これをベースにして2つのキャパシターを逆向きに分極させることでデータの信頼性を高めている2T2C型である。なお、1T1C型はDRAMと同じメモリセル[注釈 1]構成でもある。

更に、この他に、ゲート絶縁膜が強誘電体から成るMFS-FET又はMFMIS-FETを用いる1T型トランジスター型)が存在し、これは特にFFRAMと呼ばれて区別されている。

FeRAMでは、FETをオンさせただけではビット線にはデータは出力されない。何故ならば、セルであるキャパシターに電圧が印加されない状態では、セルに記憶されているデータが1であるか0であるかは強誘電体膜中に保存されているので、それを読み出すにはソースプレートを駆動してキャパシターに電圧を印加して強誘電体膜中の分極を外部に電荷量として読み出さなければならないからである(これは読み出しに静電容量が極めて大きいセルキャパシターを駆動する時間を必要とすることも意味する。)。従って、FeRAMにおいては、ワード線とビット線以外にも、ソースプレートの駆動線と特定のセルのそれを駆動するためのデコーダー回路が必要となる。

このためFeRAMでは、セルの微細化アクセス速度の高速化は困難であった。これらの欠点を克服すべく、東芝ChainFeRAMと呼ばれる新しいメモリセル[注釈 1]構造のFeRAMを2001年に発表している[3][注釈 2]

1T1C型

書き込み時にはワード線でセルである強誘電体キャパシターを選択し、ビット線とソースプレートの間に電圧を印加して強誘電体膜を分極させる。読み出し時にはパルス電圧を加えて分極反転による電流が流れたかどうかでセルに蓄えられたデータをセンスアンプで判定する。この時、分極は元の状態に依らずに電圧印加方向を向く(同方向ならば電流が流れず、反対方向ならば分極反転して電流が生じる。)ので、破壊読出しとなる。このため、読み出す時には必ず再書き込みを必要とするので、書き込み回数に読み出し回数も含まれる。

キャパシター膜が常誘電体でなく強誘電体であるので、FETにリーク電流が有ったり電源が遮断されてもキャパシターの電荷を失わない(データが消えない)。つまり、不揮発メモリであると同時にリフレッシュが不要であるため、消費電力が少ない。

2T2C型

1T1C型と同様にワード線に拠ってセルの強誘電体キャパシター1を選択する。書き込みは同様にソースプレートの昇圧によっが、この時に、対となっている強誘電体キャパシター2の電界効果トランジスタのビット線にも時間差を付けて昇圧する。このままではソースプレートを降圧した時点で対となっている側の強誘電体キャパシター2には負の電圧が印加されるため、書き込みを意図している強誘電体キャパシター1とは逆方向に残留分極が発生する。こうして互いに異なる向きの分極が形成されるため、「0・1」または「1・0」という組み合わせでデータを表す。

読み出し時も同様にワード線とソースプレートを昇圧して、ビット線のどちらの電圧の変化が大きいか(どちらに変位電流が流れるか)を測定することでデータを判定する。なお、この時に順方向の分極を持つ強誘電体キャパシター1でも電圧が変化するのは分極の微小変位によるものである。また、読み出し時に、強誘電体キャパシター2のワード線より先にソースプレートを降圧すると、負の電圧が印加されて再書き込みが行なわれ、読み出し時のデータ破壊を防げる。


注釈

  1. ^ a b c d e データの最小単位である1bitを保持するために必要な回路
  2. ^ なお、ChainFeRAM東芝商標である。
  3. ^ 時間経過しても残留分極を維持し続ける事
  4. ^ a b c d e 分極反転を繰り返すと残留分極が減少していく現象
  5. ^ a b c 電場に因って、分極率-電圧特性が経時的にシフトする現象(同一方向に複数回パルス電圧を印加した後では逆方向のパルス電圧を印加しても1回では完全分極反転し難くなる。)
  6. ^ ゲート長の最小寸法をFとした時のセルサイズ。なおEEPROMでは40F2以上である

出典

  1. ^ Cypress Semiconductor has acquired Ramtron International Corporation” (英語). 2014年3月7日閲覧。
  2. ^ 強誘電体メモリ「FeRAM」への呼称変更のお知らせ” (2022年6月28日). 2024年3月3日閲覧。
  3. ^ 新不揮発性メモリChainFeRAM」(PDF)『東芝レビュー』第56巻第1号、東芝、2001年1月、51-54頁。 
  4. ^ “Deterministic arbitrary switching of polarization in a ferroelectric thin film”. Nature Communications 5 (Nature Publishing Group) (4971). (2014-09-18). doi:10.1038/ncomms5971. http://www.nature.com/ncomms/2014/140918/ncomms5971/full/ncomms5971.html. 
  5. ^ 強誘電体メモリー、超高密度化に道』(PDF)(プレスリリース)東北大学、2014年9月19日http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press_20140919_02web.pdf 
  6. ^ “東北大、強誘電体メモリの記録密度を大幅に向上させる可能性を示す”. マイナビ. (2014年9月22日). https://news.mynavi.jp/techplus/article/20140922-a305/ 
  7. ^ “Direct observation of oxygen stabilization in layered ferroelectric Bi3.25La0.75Ti3O12 (PDF). APPLIED PHYSICS LETTERS (American Institute of Physics) 91 (062913). (2007-09-10). doi:10.1063/1.2768906. http://scitation.aip.org/deliver/fulltext/aip/journal/apl/91/6/1.2768906.pdf?itemId=/content/aip/journal/apl/91/6/10.1063/1.2768906&mimeType=pdf&containerItemId=content/aip/journal/apl. 
  8. ^ (PDF) Direct observation of oxygen stabilization in layered ferroelectric Bi3.25La0.75Ti3O12. 理化学研究所. (2007-09-10). http://www.spring8.or.jp/pdf/en/res_fro/07/056-057.pdf. 
  9. ^ FeRAM用新強誘電体薄膜の低温成膜に成功』(プレスリリース)富士通、2001年3月30日http://pr.fujitsu.com/jp/news/2001/03/30-1.html 
  10. ^ FRAM搭載LSIがFeliCa方式ICカードに採用』(プレスリリース)富士通、2006年11月7日http://pr.fujitsu.com/jp/news/2006/11/7.html 


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