就職氷河期
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氷河期世代
日本では、就職氷河期時に就職活動を行った世代のことを「氷河期世代」と呼ぶ[86]。内閣府は2019年6月21日の閣議決定「経済財政運営と改革の基本方針2019」において[87]、「(2019年)現在、30代半ばから40代半ば」と定義しており、厚生労働省は2019年8月30日の発表において、「1993年(平成5年)から2005年(平成17年)に学校卒業期を迎えた世代(33歳-44歳)」を指し、中心層は35歳から44歳と説明している[88]。2023年(令和5年)4月1日現在の「30代後半から40代後半(36歳から48歳)」は、概ね1974年(昭和49年)度から1986年(昭和61年)度生まれ(但し、それは高校卒業時に就職した者を基準にした場合)に相当する。大学卒業者の場合は4歳ほど上にずれるので、氷河期世代の範囲は2023年(令和5年)4月1日現在で40歳から52歳(概ね1970年〈昭和45年〉度から1982年〈昭和57年〉度生まれ)。
その他、「貧乏くじ世代」(香山リカ)、「ロストジェネレーション」(『朝日新聞』が2006年8月及び2007年1月5日付28-29頁の特集で使用)、「棄民世代」(藤田孝典)などと呼ばれることもある。氷河期世代には安定した職に就けず、派遣労働者やフリーターなどの不安定労働者(プレカリアート)が非常に多い。『反貧困』の著者である湯浅誠によると、負傷で解雇された氷河期世代の派遣労働者は「夢は自爆テロ」と言い放ったという[89]。
また、「氷河期世代」は「割を食った世代」の意味とも等しく、日中戦争、アジア・太平洋戦争期に徴兵される年齢層に当たった大正生まれの戦争体験者は、「私たちの世代が一番戦争の割を食った」と口にした「人生25年」と言われた時代でもあったため、元祖の氷河期世代と言える。
氷河期世代の区分と時代背景
高度経済成長期の終盤から安定成長期にかけて生まれた世代で、概ね団塊ジュニア、ポスト団塊ジュニアに分かれる。
団塊ジュニアは、1990年代前半までに高校を卒業し、好景気や昭和の余韻があった時代を経験している。ポスト団塊ジュニアが学生であった1990年代中期〜後期は平成不況真っ只中であり、好景気を全く知らないまま「就職難は織り込み済み」の時代に学生生活を送った。内閣府及び厚生労働省は、ポスト団塊ジュニアを就職氷河期世代の中心層と捉えており、当世代に対し、就職氷河期世代支援プログラム(3年間の集中支援プログラム)を掲げている[87][88]。ただし、内閣府及び厚生労働省による氷河期世代の世代定義は高卒者を基準にしているため、大卒者との間には4年のタイムラグがある。
氷河期世代の社会問題
就職活動が長期化するうちに引きこもり状態になってしまったものもいる。労働力調査基本集計及び詳細集計(2018年平均)のによると、就労せず、家事も通学もしていない者が約40万人(35歳から44歳人口の2.4%)にのぼる[88]。また、氷河期世代の職が不安定であったことによって、未婚化・晩婚化が起き[90]、20代の出産の減少[91]と30代の出産の増加[92]により分散されている。2006年から2008年にかけて合計特殊出生率を増加させた一因として、氷河期世代である団塊ジュニアの出産がある。
1980年代前半生まれは、収入に見合った消費をしない心理的な態度を持っていることから「嫌消費世代」とも呼ばれる[93]。生活を65歳以上になった親の年金に依存するパラサイト・シングルもおり[94]、親子の年齢から当初は「7040問題」とも呼ばれていたが、そのまま10年が経ち「8050問題」と呼ばれるに至った。
2019年6月1日に発生した元農水事務次官長男殺害事件は、かつて農林水産事務次官を務めた元エリート官僚である76歳の父親が、44歳無職の息子を殺害した事件である。ほとんど引きこもり状態で両親に暴力をふるう息子の今後を悲観した父が、息子に引導を渡した事件として話題となったが、背景には引きこもりの高齢化(いわゆる8050問題)があった。
これに対し、宝塚市は、2019年時点で「就職氷河期世代」とされる30代半ばから40代半ばの人を対象にした正規職員の採用試験を実施した。この宝塚市の採用試験には、全国から1816人の応募があり、募集枠は3人だったが、上位4人の成績がほぼ同じであったとして、市は採用数を1人増やし、結果的に4人を採用した。倍率が400倍以上であったことが話題となり、就職氷河期世代を対象とした職員採用はその後、他の自治体や国でも実施された。
氷河期世代の前後の世代
氷河期世代の前の世代であるバブル世代(1965年4月2日~1970年4月1日生まれ)も、団塊ジュニアの高卒者と同様に、1997年のアジア通貨危機や1999年の産業再生法施行後による人員削減により不安定雇用に追い込まれた者も少なくない[42]。
氷河期世代の後の世代(大卒者の場合は1983年4月2日以降生まれ、高卒者の場合は1987年4月2日以降生まれ)は、リーマンショック後及び東日本大震災後の一時期を除き売り手市場が続いており、団塊の世代(1947年4月2日~1950年4月1日生まれ)が全員65歳以上になったのもあり、2018年3月の大卒の就職率(卒業者のうちの就職者の割合)は77.1%と、バブル期並みの就職率となっている[95]。
しかし、2020年に入ると新型コロナウイルス感染症の流行による経済・雇用環境の悪化に伴い、2021年新卒者の就職環境はそれまでの売り手市場から一転して、前年に比べ求人倍率や就職内定率が大幅に低下しており、新たな就職氷河期の再来が懸念されている。
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