医薬品 医薬品の概要

医薬品

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/18 04:20 UTC 版)

伝統的な医薬品である生薬。写真は紅花
粉状の医薬品を入れたカプセル
アンプルに入った液状の医薬品
医薬品の例。錠剤。写真はリタリン20 mg錠。
ブリスターパックされた医薬品の錠剤

医薬品の定義と分類

日本

医薬品医療機器等法による定義

日本の医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)第2条は次のように定義する[1]

  1. 日本薬局方に収められている物
  2. または動物疾病の診断、治療または予防に使用されることが目的とされている物であって、機械器具、歯科材料、医療用品および衛生用品でないもの(医薬部外品を除く。)
  3. 人または動物の身体の構造または機能に影響を及ぼすことが目的とされている物であって機械器具、歯科材料、医療用品および衛生用品でないもの(医薬部外品および化粧品を除く。)

日本薬局方(局方)に収載された医薬品を日本薬局方医薬品と称する。第一部医薬品、第二部医薬品に大別される。局方はおよそ5年に一回大改定するが、その間2年に一回程度追補版を発行して収載品目を見直す。最新版は2011年3月24日に第十六改正日本薬局方が公表された。局方は使用方法、効果、作用機序などが明確な品目を収載するが、米国薬局方 (en:United States Pharmacopeia, USP) などに比して収載品目数や記載内容で現状に過不足が生じ、収載品目を増補している。

国内で医薬品として譲渡を含め流通させるためには、厚生労働大臣による製造販売承認が必要である。承認のないもので医薬品、医薬部外品、化粧品もしくは医療機器に該当しないものは「効能」「効果」をうたうことはできない。保健機能食品で許された範囲内で標榜する場合を除き、医薬品としての効能効果をうたう製品は「未承認医薬品」として処罰対象となる。

医薬品の分類

日本の医薬品は次のように分類される。動物用医薬品を除く。

  • 医療用医薬品 - 医師等によって使用されまたはこれらの者の処方箋もしくは指示によって使用されることを目的として処方される医薬品。対面販売が必須[2]。2000年9月に販売名の命名方法が統一され、既存製品の販売名も代替新規申請扱いで変更された[3]。2015年に日本国内の医薬品生産額の約88%を占めていた[4]
    • 処方箋医薬品
      販売に処方箋を要する医薬品。
    • 処方箋医薬品以外の医療用医薬品
      処方箋医薬品同様、処方箋に基づく薬剤の交付を原則としているが、2005年の通達で条件を満たせば処方箋がなくても処方箋医薬品以外の医療用医薬品の購入が可能となった[5]。薬局は一般向けの零売を自粛しているため、処方箋なしの販売はいわゆる零売薬局のみの扱いになる。
    • 薬局製造販売医薬品 - 承認許可を得て薬局の調剤室で製造が認められる製剤で、2014年6月12日の改正でインターネット販売が原則として解禁された[2]
  • OTC医薬品
    大衆薬や市販薬を指し、購入時に処方箋不要の医薬品である[6]。2015年に日本国内の医薬品生産額の約12%を占めた[4]
    • 要指導医薬品
    2014年6月12日の改正で新設された区分で、リスク分類で「副作用等により日常生活に支障をきたす程度の健康被害が生ずるおそれがある医薬品のうち、その使用に関して特に注意が必要で、新しく市販された成分等を含むもの」と定義される医薬品[2]で、薬剤師の対面販売が義務[2]である。
    • 一般用医薬品
      処方箋不要で購入可能な医薬品。インターネットで2014年以降購入可能となった[7]。一般用医薬品はリスクが高い順で、第一類・第二類・第三類の3種に分類されている[8]
      • 第一類医薬品 リスクが高く、薬剤師による販売と、販売時に利用者へ書面の交付が義務[9]である。
      • 第二類医薬品 リスクがやや高く、登録販売者も販売が可能で、販売時に利用者へ書面の交付は努力義務[9]である。
      • 第三類医薬品 リスクが比較的低く、登録販売者も販売が可能で、販売時に利用者へ書面の交付は不要[9]である。

食薬区分

食品成分の薬理作用から疾病予防などの効果をうたう健康食品が出現して医薬品と食品の区分が不明瞭となり、明確な区分が示された。

1971年(昭和46年)、「無承認無許可医薬品の指導取締りについて」(昭和46年6月1日薬発第476号、厚生省薬務局長通知、(別紙)医薬品の範囲に関する基準)が出され、医薬品と食品の区分が明示された(通称46通知)[10]

食品に分類されるもの

  1. 野菜果物菓子、調理品等その外観、形状等から明らかに食品と認識される物
  2. 健康増進法第26条(旧栄養改善法第12条)の規定に基づき許可を受けた表示内容を表示する特別用途食品(病者用食品、妊産婦授乳婦用粉乳、乳児用調製粉乳、高齢者用食品、保健機能食品特定保健用食品栄養機能食品が該当する)

上記に該当しないものは、下記4要素で医薬品と食品を判別する。

  1. 専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)の含有。ただし薬理作用の期待できない程度の量で着色、着香等の目的のために使用されている場合を除く。
    1. 毒性の強いアルカロイド、毒性タンパク等、その他毒劇薬指定成分(別紙参照)に相当する成分を含む物。
    2. 薬、向精神薬および覚せい剤作用がある物。
    3. 指定医薬品または要指示医薬品に相当する成分を含む物であって、保健衛生上の観点から医薬品として規制する必要性がある物。
  2. 医薬品的な効能効果(疾病の治療または予防、身体の組織機能の増強増進、またそれらを暗示する表示)の標榜
  3. 医薬品的な形状(アンプル剤)
  4. 医薬品的な用法用量の表示

上記の4要素のうち1つ以上を満たすものは医薬品に分類され、医薬品医療機器等法による規制を受ける。

2001年(平成13年)に厚生労働省医薬局長 「医薬品の範囲に関する基準の改正について」(医薬発第243号平成13年3月27日、厚生労働省医薬局長)で、錠剤やカプセルなど医薬品のような形態でも食品であることを明記すれば形状だけで医薬品と判断しない、と基準が緩和された。

フランス

フランスでは処方箋医薬品と良性の初期症状への処置を目的とする処方箋任意医薬品に分類される[11]

ドイツ

ドイツでは処方箋医薬品、副作用が少なく一定の安全性が確認されているものに指定される薬局販売医薬品、強壮・健康状態の改善・内臓諸器官の機能保護・疾病の予防を目的とするもので具体的な効能・治療効果をもたないものに指定される自由販売医薬品に分類される[11]

イギリス

イギリスでは処方箋医薬品、一定の安全性が確立されているものの薬剤師が販売を監督する必要があるものに指定される薬局販売医薬品、安全性が広範に確立され薬剤師が販売を監督する必要がないものとして一般小売店で販売が可能なものに指定される自由販売医薬品に分類される[11]

医薬品の開発

新薬の開発は、さまざまな素材から化合物を抽出または合成して基礎研究し、動物などで非臨床試験を実施後、3段階に分けて臨床試験する。試験終了後に国による承認審査が行われ、認可を受けて生産体制を整えて発売する。着手から発売までは、最短で10年余[12]を要し、創薬と呼ばれる[13]

新たな医薬品(先発医薬品・新薬)を開発することにより一定の利益を上げられるほか、画期的なブロックバスターとなれば製薬会社に莫大な利益をもたらすため、会社間の開発競争が続いている。一方で開発には長い期間(十数年)と巨額の費用(数百億円)を必要とする[14]。医薬品業界は研究開発費の占める割合が世界で最も高い業界であり、2006年度で売上の15.9%が研究開発費に充てられていた[15]。日本でも同様の傾向を示しており、2014年度には売上の12.2%が研究開発費となっていた[16]。製品化できないリスクも他の業界に比べて高い。1990年代後半以降、研究開発費は上昇を続ける一方、研究の成功率は減少している[17]

厚生労働大臣の承認を得る必要があり、新薬の特許は申請後原則20年で無効となる。特許庁に特許延長が認められれば、最大5年間の延長される。上市後の特許保護期間は、ほかの製品に比べ短くなることから、常に新たな医薬品の研究・開発が必要とされる。新薬開発の標的となるタンパク質の枯渇により研究開発費は上昇を続けている。以上のことから、医薬品業界は世界的に再編が進み、世界的な超大手企業(多国籍企業)に集約されつつある。日本でも例外ではなく、医薬品メーカーの再編が急激に進んでいるという。

期間の切れた特許で作られた医薬品は後発医薬品(ジェネリック医薬品)と呼ばれ、後発品専門の医薬品メーカーも存在する。既に先発メーカーで実績のある有効成分を用いる事から、開発期間も短く、新たな投資が少ないため、先発品よりも費用が安く、国の医療保険財政に貢献している。2007年度には日本の医薬品販売額の6.2%がジェネリック医薬品によって占められていた[18]


  1. ^ 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律”. e-Gov法令検索. 総務省行政管理局. 2013年6月22日閲覧。
  2. ^ a b c d 薬と健康の週間 一般用医薬品について”. 福島県薬剤師会. 2014年10月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年2月20日閲覧。
  3. ^ 医療事故を防止するための医薬品の表示事項及び販売名の取り扱いについて 厚生省医薬安全局長通知第935号(2000年9月19日) (PDF)
  4. ^ a b 長尾 2018, p. 21.
  5. ^ 処方せん医薬品等の取扱いについて 厚生労働省医薬食品局長通知第0330016号(2005年3月30日)、一部改正 0331第17号(2011年3月31日) (PDF)
  6. ^ https://www.daiichisankyo-hc.co.jp/health/knowledge/otc/type.html 「OTC医薬品の分類」第一三共ヘルスケア 2020年9月12日閲覧
  7. ^ 長尾 2018, p. 234.
  8. ^ 長尾 2018, pp. 126–127.
  9. ^ a b c 長尾 2018, p. 127.
  10. ^ 無承認無許可医薬品の指導取締りについて”. 厚生労働省法令等データベースサービス. 厚生労働省 (1971年6月1日). 2016年5月22日閲覧。
  11. ^ a b c d e f g h i j 諸外国における医薬品販売制度等について 厚生労働省、2017年2月20日閲覧。
  12. ^ http://www.jpma.or.jp/medicine/med_qa/info_qa55/q33.html 「Q33 1つのくすりを開発するのに、どれくらいの年月がかかりますか。」製薬協 2020年8月10日閲覧
  13. ^ 長尾 2018, p. 76.
  14. ^ http://jasmo.org/ja/business/flow/index.html 「くすりができるまで」日本SMO協会 2020年8月10日閲覧
  15. ^ a b OECD 2009, p. 52.
  16. ^ 長尾 2018, p. 78.
  17. ^ OECD 2009, p. 56.
  18. ^ OECD 2009, p. 62.
  19. ^ OECD 2009, p. 57.
  20. ^ OECD 2009, p. 28.
  21. ^ OECD 2009, p. 30.
  22. ^ OECD 2009, pp. 40–42.
  23. ^ 長尾 2018, pp. 20–21.
  24. ^ 国際医薬品情報誌協会 2005, p. 7.
  25. ^ 国際医薬品情報誌協会 2005, p. 11.
  26. ^ Peter C. Gøtzsche (14 December 2012). Corporate crime in the pharmaceutical industry is common, serious and repetitive (pdf) (Report). Nordic Cochrane Centre. 2014年6月4日閲覧, これの短縮版は以下である:Gotzsche, P. C. (2012). “Big pharma often commits corporate crime, and this must be stopped”. BMJ 345 (dec14 3): e8462–e8462. doi:10.1136/bmj.e8462. PMID 23241451. 
  27. ^ Maia Szalavitz Sept (2012年9月17日). “Top 10 Drug Company Settlements”. TIME.com. http://healthland.time.com/2012/09/17/pharma-behaving-badly-top-10-drug-company-settlements/ 2013年2月23日閲覧。 
  28. ^ 詫摩 2020, pp. 191–193.
  29. ^ 詫摩 2020, pp. 193–197.
  30. ^ 詫摩 2020, pp. 200–202.
  31. ^ 現行特許法で初の強制実施権発動−日本企業の製薬ビジネスにも危機感−(インド) - JETRO 2012年03月19日 2020年9月13日閲覧
  32. ^ Q39 「ドラッグ・ラグ」とはなんですか。国と製薬産業は、どのような取り組みをおこなっていますか。 - 製薬協 2020年9月13日閲覧
  33. ^ OECD 2009, p. 134.
  34. ^ 長尾 2018, p. 226.
  35. ^ ドラッグ・ラグの試算(平成24~28年度) - 独立行政法人医薬品医療機器総合機構 2020年9月13日閲覧
  36. ^ ドラッグ・ラグの試算(平成26~30年度) - 独立行政法人医薬品医療機器総合機構 2020年9月13日閲覧
  37. ^ 1回3349万円…超高額薬キムリア、22日から保険適用 薬価の在り方に一石、患者側は期待も - 産経新聞 2019.5.21 2020年9月13日閲覧
  38. ^ 史上最高額、薬価2億3375万円の薬が米国で登場 - 日経バイオテク 2019.05.29 2020年9月13日閲覧
  39. ^ 医療保険ゆさぶる高額薬 1億6707万円、20日保険適用 - 日本経済新聞 2020/5/13 2020年9月13日閲覧
  40. ^ a b トランプ氏、薬価引き下げへ大統領令 選挙へアピール - 日本経済新聞 2020/7/25 2020年9月13日閲覧
  41. ^ 「一気に55倍も……値上げ相次ぐアメリカの薬価 問われるのは企業倫理だけか」 THE PAGE 2016/9/4 2020年9月13日閲覧
  42. ^ 米下院議長、薬価引き下げに向け法案公表 大統領に協力呼び掛け - ロイター 2019年9月20日 2020年9月13日閲覧
  43. ^ 長尾 2018, pp. 38–39.
  44. ^ 長尾 2018, p. 39.
  45. ^ 1回3349万円…超高額薬キムリア、22日から保険適用 薬価の在り方に一石、患者側は期待も - 産経新聞 2019.5.21 2020年9月13日閲覧
  46. ^ 後発医薬品(ジェネリック医薬品)の使用促進について - 日本国厚生労働省 2020年9月13日閲覧


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