モアビ 分布

モアビ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/11/06 14:16 UTC 版)

分布

ナイジェリアから熱帯アフリカ西中央部にかけて分布する[2]。具体的にはナイジェリア、カメルーンガボンコンゴ共和国アンゴラカビンダ州)、コンゴ民主共和国(旧ザイール)、中央アフリカ共和国に見られる[2]

生態

ナイジェリアからアンゴラ領の飛び地であるカビンダ州にかけて(特にカメルーン・ガボン林)の常緑湿潤林に見られる[16]原生林に豊富に見られ、雨季のはじめに落葉する[17]

ガボンでは最大級の巨木の一つであり、葉は花が咲く前に落ちる[18]。果実が実る頃になるとすぐにそれと分かる芳香を放つようになり、現地語の一つであるミエネ語ンポングウェ方言では orèrè wi baguma anango dava〈オレレ (= モアビ) は遠くまで実の香りを広げる〉ということわざが見られる[18]。この果実はサルイボイノシシゾウの好物である[18]

コンゴ地域の森林においても最大級の巨木の一つであり、Chaillu やマヨンベ地方(Mayombe)の湿潤林には豊富に見られるが、一方でキュヴェト地方や林業セクターには全くと言ってよいほど見られず、これは土壌の性質によるものと考えられる[6]コンゴ民主共和国(旧ベルギー領コンゴ)の地理で言えば、マヨンベ地方の森やコンゴ中央州(旧バ・コンゴ)やカサイ地域(Kasaï region)の拠水林英語版に見られる[5]

形態的特徴

樹幹は円筒形であり[18]通直で径2メートル、基部肥厚小である[17]。樹皮は厚くて粗く、深く裂け、白色の乳液を出す[18]

葉は単葉で全縁、裏面が有毛で小枝先に束生し、披針形の托葉も束生する[17]。葉身は倒披針形で最大30×10センチメートル、先端は円形だが後に急激に鋭尖形となり、葉脈は下方に突出する[16]。葉柄は細長く3-4センチメートルである[16]

花は両性花であり4室、萼片は8つでうち4つが外面、残り4つが内面に見られる[16]。花冠は筒状で8裂、雄蕊(おしべ)が8本で、軟毛に覆われた仮雄蕊が8本存在し、子房は単胚珠、小花梗には軟毛が見られ、長さ3センチメートルに達する[16]

果実は球状である[18]

種子は卵形で殻は堅くて厚く[19]、細い外被や縦方向全体にわたる腹部の縫合部を有する[6]。仁には油脂が含まれる[19]

利用

木材

モアビは日本でアフリカザクラ、アフリカンチェリー、洋桜という市場通称で流通する赤味のある材を産出するアカテツ科の樹種の一つである[20][注 4]。大径木であるため大きな材が得られ、色味の類似性からサクラ材の代用材として扱われるが、サクラ材よりも重硬であり、西アフリカに生育しやはりアカテツ科であるマコレ(Tieghemella spp.)と全体的な雰囲気が似ている[20]

心材は赤味の強い茶褐色で、辺材は灰白色系である[20]木目はかなり詰まっていて、(玉杢、泡杢)が見られる場合もある[20]

木質は緻密で気乾比重0.80-0.88、ロクロ加工ではシャラシャラと挽くことが可能で削りやすいが、細かい針状の木屑も出て、目鼻を刺激し、喉がイガイガしてくる[20]。加工の際にはほかにシリカに当たる場合があるということも注意すべき点である[20]

用途には化粧板、テーブル天板、床板、唐木細工[20]、装飾、外装、家具といったものがある[17]

ガボンでは輸出用木材として2番目に重要な樹種である[1]

食用

果実(ガボンの現地語では oyawe、dyabi、ndjabé、éabé、liyavi、liyèbi という)は食用となり、仁から食用の油脂も得られる[18]

薬用

ガボンでは何らかの病気の際にモアビの仁の油脂が揉み込まれる形で用いられる[19]

コンゴ共和国では樹皮を煎じたものが様々な呼吸器系胃腸の病の際に服用され、催吐作用を有していると考えられる[6]。また女性たちは分娩後のケアやおりもの、他の感染症に対しても用いる[6]リウマチや腰部の痛みがある場合には煎じ薬を蒸気浴に使用し、搾りかすで擦ることがよく勧められる[6]。樹液は傷口の止血や癒創薬、また歯の根本の露出を防ぐために歯茎に対して用いられる[6]。乾燥させた樹皮の粉末はパーム油と混ぜ合わせてくる病の子どもの体に擦りつけられたり、てんかんの発作を防ぐために額にあてられたりする[6]

カメルーンでは油脂を皮膚病ややはりリウマチに対して用いたり(Laird (2000))、カメルーン山地方で樹皮を不妊症やほかの婦人科的な悩みに対して使用したりする(Laird & et al. (1997))といった報告が存在する[22]


注釈

  1. ^ ヨンベ語の場合は muabi[5]mwabi とも綴られる。
  2. ^ ただしこの頃既に新種や新属を宣言する慣習が存在していた(たとえば Pierre (1890:15) で新属として記載された Beauvisagea は横に新属であることを意味する "gen. nov." が明記されている)にもかかわらず、Baillonella属も Baillonella toxisperma もそのような宣言は行われていない。
  3. ^ たとえば Unwin (1920:229)、Staner (1941)Raponda-Walker & Sillans (1961:394) を参照。
  4. ^ なお「アフリカザクラ」や「アフリカンチェリー」というと西アフリカ産のマコレ(Tieghemella heckelii)やドウカ(Tieghemella africana)のことも指し、「洋桜」というとモアビや左記のTieghemella属の2種に加えて東南アジアニューギニアなど太平洋地域に見られるニヤトー(詳細はアカテツ科#利用を参照)のことも指す[21]

出典

  1. ^ a b c d e White, L. (1998). Baillonella toxisperma. The IUCN Red List of Threatened Species 1998: e.T33039A9752397. doi:10.2305/IUCN.UK.1998.RLTS.T33039A9752397.en. Downloaded on 24 June 2021.
  2. ^ a b c d Govaerts & et al. (2021).
  3. ^ Ingram, Verina (2017). “Creating an information pole with the use of available scientific resources”. Living in and from the Forests of Central Africa. Rome: Food and Agriculture Organization of the United Nations. p. 104. ISBN 978-92-5-109489-1. https://www.google.co.jp/books/edition/Living_in_and_from_the_forests_of_Centra/kRRrDwAAQBAJ?hl=ja&gbpv=1&dq=African+pearwood&pg=PA104&printsec=frontcover 
  4. ^ Raponda-Walker & Sillans (1961:395).
  5. ^ a b c d Staner (1941).
  6. ^ a b c d e f g h Bouquet (1969:224).
  7. ^ a b c Dalziel (1937:358).
  8. ^ a b c Keay, Onochie & Stanfield (1964:350).
  9. ^ Perrot (1907:163).
  10. ^ Perrot (1907:170).
  11. ^ a b Dubard, M. (1915). “Les Sapotacées du groupe des Sideroxylinées-Mimusopées” (フランス語). Annales du Musée Colonial de Marseille 3e série (3): 37. https://odyssee.univ-amu.fr/files/original/2/270/Annales-Musee-colonial_1915-Vol-03.pdf. 
  12. ^ Pierre (1890:13–4).
  13. ^ Natürlichen Pflanzenfamilien. Nachträge zum II bis IV Teil: 279. Leipzig.
  14. ^ de Lanessan, J.-L. (1886). Les plantes utiles des colonies françaises. Paris: Imprimerie Nationale. p. 837. https://www.biodiversitylibrary.org/page/40336123 
  15. ^ Bassia djave Laness., nom. inval.”. GRIN-Global. United States Department of Agriculture. 2021年6月24日閲覧。
  16. ^ a b c d e Eyog Matig & et al. (2006:147).
  17. ^ a b c d 熱帯植物研究会 編 (1996).
  18. ^ a b c d e f g Walker (1930:312).
  19. ^ a b c Walker (1930:313)
  20. ^ a b c d e f g 河村 & 西川 (2019:258).
  21. ^ 河村 & 西川 (2019:208, 252).
  22. ^ Eyog Matig & et al. (2006:148).


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