ボタ山
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/22 18:47 UTC 版)
概要
炭鉱では石炭や亜炭の採掘に伴い捨石(ボタ)が発生する。この捨石をトロッコなどを用いて長年積み上げられるとやがて山ができる。こうしてできた山をボタ山または方言でズリ山[4]という[3]。トロッコやベルトコンベアなどの機力で捨石を運搬したボタ山は、円錐型になる。山本作兵衛によると、筑豊炭田でボタ山が円錐型になったのは、昭和に入ってからの事だという[5]。
品質が低いとはいえ、捨石の中には石炭分が多く含まれることがあるために自然発火[6][7] や延焼などが原因で火災となることがある[8]。この自然発火によって生じる一酸化炭素中毒も問題となることがある[2]。
ボタ山の組成は炭坑により異なる。高田炭坑(福岡県粕屋郡篠栗町)のボタ山は大部分が黒っぽい頁岩で、それに比べ砂岩は少量しか存在しない[1]。これに対し常磐炭坑のボタ山は大半が砂岩といわれている[6]。ブラジルのサンタカタリーナ州の炭坑では、ボタの中に含まれる黄鉄鉱による河川の汚染が問題になった[2]。
ボタ山には堆積後5年から6年経過すると植生の侵入がみられるようになり、最初にマツヨイグサ、ハルタデ、ヨモギ、ススキなどがみられるようになる[1][6] [9]。
管理
日本
日本の地すべり等防止法では「ぼた山」と表記され、
「石炭又は亜炭に係る捨石が集積されてできた山であって、この法律の施行の際現に存するものをいい、鉱山保安法及び経済産業省設置法の一部を改正する法律(平成十六年法律第九十四号)第一条の規定による改正前の鉱山保安法(昭和二十四年法律第七十号)第四条又は第二十六条の規定により鉱業権者又は鉱業権者とみなされる者がこの法律の施行の際必要な措置を講ずべきであったものを除く」 — 地すべり等防止法2条2項
と定義されている。
ボタ山・ズリ山は鉱山保安法においては捨石集積場と呼ばれる。捨石集積場の比高は数10mから100mを超えるものもあり、安定性に欠け容易に崩壊しやすいのが特徴である。このため、鉱業権者は鉱山保安法、地すべり等防止法、森林法等の法令により維持管理が義務づけられるほか、捨石の採取、土地の改変等が厳しく規制される。
イギリス
イギリスでは2020年2月の暴風雨「デニス」によりウェールズ南部にあるタイロスタウンでボタ山の一部が崩れ落ち、6万トンにも及ぶ廃棄物が川に流れ込んで下水管などを破壊する事故が発生した[10]。デニスの襲来をきっかけにウェールズ政府は地方内の2456のボタ山の安全管理のため「安全性タスクフォース」を立ち上げるとともに、ボタ山のリスク度を公表することになったが、2021年10月末までに327が「高リスク」と発表された[10]。
ボタ山崩壊事故
日本
- 1955年、佐世保炭鉱(佐世保市)にて、大雨によりボタ山が崩壊。炭鉱住宅や事務所が埋没して73人が死亡する被害(安倍鉱業ボタ山崩落事故)[11]。
- 1957年、長崎県北部地方を襲った集中豪雨により、北松浦郡江迎町の江迎炭砿のボタ山が崩壊し、流出土砂が国鉄松浦線(現在の松浦鉄道西九州線)潜竜駅(現在の潜竜ヶ滝駅)及び周辺の商店街、国道を埋没させる騒ぎとなった。他の箇所でも負傷者2名が出ている。
- 1960年1月7日、福岡県田川郡大任町の古河鉱業大峰炭鉱にあるボタ山が崩壊し7名が死亡。このボタ山は普段から自然発火が見られ、犠牲者の死因も全身火傷によるものが多かった。
中国
- 2008年9月8日、山西省臨汾市襄汾県の鉄鉱山でボタ山が崩壊。大量の土砂が土石流化して下流に流出し多数の死者、行方不明者を出す被害となった。鉱山は、安全基準を満たしていないため閉鎖されていたが、違法操業が続けられていたという[12]。
イギリス
- ^ a b c 坂上務「ボタ山の微気象」 農業気象 第15巻 第2号、2022年12月22日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k II.ボタの有効利用 国際協力機構、2022年12月22日閲覧。
- ^ a b “赤平観光協会 - あかびら炭鉱遺産>ズリ山”. 2021年11月25日閲覧。
- ^ ボタが石炭鉱山から出る屑であるが、北海道東部中部、本州の一部では本来金属鉱山から出る屑の名称ズリを方言として使用する。北海道でズリと言うのは、本州で方言でズリと言って居た地域の出身者が言った事に依る。此れは江戸時代の松前藩が開削を行った西部の炭鉱ではボタと言う事で判る。旧茅沼炭鉱の周囲では北海道であるが、硬(ボタ),硬(ボタ)山と、現在でも云われて居る。
- ^ “図録番号418 タイトル:ボタ山(ピラミッド形は昭和になって)/ 山本作兵衛コレクション/ 田川市”. 田川市 (2017年3月13日). 2023年2月4日閲覧。
- ^ a b c 炭鉱ボタ山緑化試験について 福島県、2022年12月22日閲覧。
- ^ “森へおいでよ 筑豊の自然再発見<27>石炭採掘の不要物 景色の中にボタ山が”. 西日本新聞 (2017年3月23日). 2019年3月6日閲覧。
- ^ “「ボタ山」、2年間燃え続ける 消す方法は見つからず”. 朝日新聞デジタル (2019年3月5日). 2019年3月6日閲覧。
- ^ 大石道義,ぼた山覚書。産業考古学92号所収。
- ^ a b 小林恭子「ウェールズで300以上のボタ山が「高リスク」と査定 - 55年前の崩落事故がいまだ脳裏に」 英国ニュースダイジェスト、2022年12月22日閲覧。
- ^ 日外アソシエーツ編集部編 編『日本災害史事典 1868-2009』日外アソシエーツ、2010年、106頁。ISBN 9784816922749。
- ^ “<土石流事故><続報>500人以上が生き埋めか、原因は鉱山の違法操業―山西省臨汾市”. レコードチャイナ (2008年9月9日). 2019年3月6日閲覧。
- ^ “イギリス史上最悪の産業事故、ボタ山崩落から50年 子供たちを失った母親たちの半世紀”. Huffpost News (2016年10月23日). 2019年3月6日閲覧。
- ^ “地域資源「ズリ」の活用による夕張再生エネルギー創出事業”. 総務省 地域の元気総合プラットフォーム (2015年1月15日). 2019年3月6日閲覧。
- ^ 日外アソシエーツ編集部編 編『日本災害史事典 1868-2009』日外アソシエーツ、2010年、141頁。ISBN 9784816922749。
- ^ “ぼた山跡に大型商業施設 福岡・水巻町 炭鉱閉山半世紀、活用本格化へ”. 西日本新聞 (2019年1月18日). 2019年3月6日閲覧。
- ^ “赤平市 - 777段日本一のズリ山階段”. 2021年11月25日閲覧。
- 1 ボタ山とは
- 2 ボタ山の概要
- 3 ボタ及びボタ山の利活用
- 4 脚注
- ボタ山のページへのリンク