バブル崩壊
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評価
経済専門のクラウドソース・コンテンツ『Seeking Alpha』は、日本の低迷の主要因はバブル崩壊であり、政府による政策の失敗・銀行の対応の遅さがデフレーションにつながったと指摘している[85]。
経済学者の野口旭、田中秀臣は「日本の長期停滞の真の原因は、バブル崩壊後の資産デフレを起因とした、マクロ的な総供給に対する総需要の恒常的な不足である」と指摘している[86]。
景気対策として、日本銀行は公定歩合を引き下げ(2001年9月には0.1%)、政府も度重なる財政出動(総額100兆円)を行ったが効果はなかった[87]。
1991年度版、1992年度版の『経済白書』は、株価・地価の暴落が景気に及ぼす効果は小さいと分析していた[88]。
1992年に来日したアラン・グリーンスパンFRB議長は「資産価格の変動は、金融システムに大きな影響をもたらす。対策は早いほうがいい」と述べていた[89]。
ミルトン・フリードマンは「日銀は急ブレーキをかけすぎた。金利を引き上げ、通貨供給量の伸びを急激に抑え、深刻な景気後退を引き起こしてしまった。日銀は誤りを正すのが遅く、リセッションを長引かせ深刻なものにさせてしまった」と指摘している[90]。
高尾義一は「資産価格の上下の状況変化を読めず、政策が後出に回った」と指摘している[89]。翁邦雄は「地価が下がりすぎると金融システムに不安が生じることが明確に理解されていれば、大胆な緩和をしたほうがよいと判断されたはずである。緩和するテンポが遅くはなかったが、金融危機を警戒していなかった分、普通の緩和しかできなかった。ただ、当時の社会的雰囲気の中では、金融システムの問題がわかっていたとしてもリアルタイムで大胆な緩和の判断を下すのは難しかったであろう」と指摘している[91]。
田中秀臣は「大蔵省(財務省)・日本銀行の両政策当事者の協調政策は、1990年代以降機能していなかった。1996年〜1998年の橋本龍太郎政権では緊縮財政とゼロ金利政策、その後の森喜朗政権では財政政策の拡大とゼロ金利政策の解除であった」と指摘している[92]。田中は「バブル崩壊以降の日銀は金融を引き締め続けた」「バブル崩壊後の持続的な金融引き締めスタンスが原因で、人々にデフレ期待が定着してしまった[93]」と指摘している。
経済学者の原田泰は「現実に採用された政策は、株価の買い支えや土地の買い上げ、地価税の凍結などである」と指摘している[94]。原田は、
- 公的資金を投入することに本当に世論の反発はあったのか
- 早期に公的資金を投入していれば本当に失われた10年にならずにすんだのか
- 世論の反発を避けて金融機関を救済したかったのなら、なぜ金融緩和という簡単な方法を採用しなかったのかという3つの疑問点があるとしている[95]。
構造問題重視
構造問題重視の立場からは、一時的に需要増もたらす景気対策には効果がなく、規制緩和・公的企業の民営化などの構造改革を通じて生産性を高めることが重要であると主張されている[96]。
経済学者の林文夫、エドワード・プレスコットは1990年代の日本の不況は、生産性上昇率の低下・法的規制による労働時間の短縮によって起こったとする論文を書き、学会に大きな影響を与えた[97]。ただし後の実証研究では、技術進歩という意味においての生産性は低下していなかったという結果も出ている[98]。
経済学者の香西泰は「失われた10年をデフレだけで説明できない。日銀はバブルを発生させ、バブル後に引き締め過ぎたかもしれないが、金融だけで失われた10年すべて説明するには無理がある。産業の問題や企業の失敗も、大きな影響となった。平成の経済停滞を『デフレ』というには、あまりにも物価の低下率が小さ過ぎる。産業自体のほうに大きな問題があって、金融はあまり関係ない」と指摘している[99]。
竹中平蔵は「『失われた10年』は、日本の企業が過大な債務の償却を先送りし、長期に渡って持ち続けたからである」と指摘している[100]。不良債権を1兆円処理するごとに15000人の失業者を生むという試算もあった[101]。竹中は「この10年間で日本は大不況だったとされているが、数字の上では必ずしも正しくない。この10年間の年平均経済成長率は1.2%であり、生活水準は13%程度高くなっている」と指摘している[102]。また竹中は「この10年間は、企業が痛みをかぶり、労働者に分配してきた」と指摘している[103]。また竹中は「小泉政権は『失われた10年』を終わらせたという意味では、歴史的使命を果たした」と指摘している[104]。
日本の労働分配率は、1990年頃は60%程度の水準であったが、バブル崩壊以降上昇し、2000年時点では約70%となっていた[81]。竹中は「売り上げが下がっても賃金は下げられないため、企業収益に対する労働分配率が上がってしまった[82]」「バブル崩壊後も日本の企業は雇用をできるだけ守り、賃金を引き下げないように努力してきた。労働分配率の上昇は、資本分配率の低下を意味する[83]」と指摘している。
池田信夫は「日本経済の長期停滞の大きな原因は、1980年代に起こった情報革命に乗り遅れたことである」と指摘している[105]。
齊藤誠は、日本経済の長期低迷をもたらした主因は、資源価格の上昇と輸出産業の競争力の衰退による交易条件の悪化だとしている[106]。
財政・金融問題重視
需要サイドの問題を重視する立場からは、バブル崩壊後の資産価格の下落(資産デフレ)を起点とする恒常的な需要不足が長期低迷の主因であり、不況脱却策として財政・金融面からの経済安定化政策の役割が強調されている[96]。
経済学者の田中秀臣は「日銀がバブル潰しのために金融引き締め政策を行い、その結果1991年にバブルが崩壊した[107]」「日銀が金融引き締めを行ったため、市場から株・不動産を買うための資金が一気になくなり、株価・不動産価格が暴落したのがバブル崩壊の真実である[108]」と指摘している。田中は「1989年の消費者物価指数上昇率は、総務省の統計によると2.3%とされているが、消費税の影響を除いた実質的な物価上昇率は、1%以下と見られている」と指摘している[109]。
経済学者の高橋洋一は「当時のバブルは資産市場にだけ金が流れ込んだため、資金規正で潰すだけで金融政策の対応は必要なかった」と指摘している[110]。高橋は「インフレ率からは正当化できないにもかかわらず、金融引き締めを行いバブルを潰そうとしたのは、日銀の失敗である。結果的にバブルではなく、日本経済全体を潰してしまった」と指摘している[111]。
日本銀行総裁の三重野康は「平成の鬼平」と評価されていたが、2010年時点での専門家の間では、行き過ぎたバブル潰しであったと言う評価になっている[112]。
経済専門のクラウドソース・コンテンツ『Seeking Alpha』は、日本の低迷の主要因はバブル崩壊であり、政府・銀行の対応の遅さがデフレーションにつながったと指摘している[113]。
日本の1994年時点の不況について、ジョン・ケネス・ガルブレイスは「(構造改革が必要であるという議論は)現実的な話ではなく、日本経済が直面しているのは循環的なものである」と指摘していた[114]。
ベン・バーナンキは2000年の時点で、日本長期停滞の原因は「極めて稚拙な日本銀行の金融政策にある」と指摘していた[115]。
経済学者のジョセフ・E・スティグリッツは、日本経済の長期低迷について「潜在成長率を大きく下回る状態が長期化していることが最大の問題」と述べており、デフレの弊害を指摘している[116]。
経済学者の岩田規久男は「バブル崩壊後の日本経済の特徴は、デフレと資産デフレが長期的に続いていることである[117]」「バブル崩壊後の景気低迷は、バランス・シート不況という特徴を持っている[118]」と指摘している。岩田は「バブル崩壊後の日本の実質経済成長率は平均で1980年代の約4%から、1992年以降は約1%へと4分の1に低下した。それ以前の10年間と比べて大きく悪化しており、他の主要国と比べても大きく劣っている」と指摘している[117]。
経済学者の原田泰は「『失われた10年』は、労働投入・資本投入の低下によって引き起こされた」と指摘している[119]。原田は「TFP(全要素生産性)の変動については原因は解らないが、労働投入の変動(減少)については実質賃金の上昇という原因が解っている」と指摘している[120]。また金丸信が1992年2月、バブル崩壊後の不況に際して「日本銀行の解雇でも政策金利を下げさせろ」と発言したことについて、「これは十年後に連邦準備制度(FRB)の優秀なスタッフが到達した結論と同じである。一体、金融の専門家とは何なのだろうか」「(金丸は金融の素人だろうが)この時点では間違いなく素人が正しかった」と述べて、金丸の「政治的な直感」を称えている[121]。
森永卓郎は「1996年頃には、首都圏の商業地の地価はバブルが始まった1986年頃の水準に戻っている。つまり、バブルの調整は終わっている。1996年以降に発生している不良債権は、不動産価格の下落・景気低迷による経営悪化、つまりデフレの深化によるものである」と指摘している[122]。
経済学者の野口旭は「日本経済が長期低迷したのは、構造問題ではなく、基本的に総需要不足によるものである[123]」「総需要不足が10年以上続いている状態は、歴史的ほとんど無い例であるが、『長さ』だけを根拠として、問題は需要側ではなく供給側にあると主張することは間違いである。日本の10年にもわたる低成長は、基本的には、総需要の不足によって生じたということは、持続的な失業率の上昇、物価の下落(デフレ)という事実から明白である[124]」と指摘していた。
日本銀行の全国企業短期経済観測調査によると、銀行の貸し渋りは1997年半ばから1998年に観測されたが、1993-1996年、1999-2000年には観測されていない[76]。野口は「1990年代で明らかに貸し渋りがあったのは、1997年、1998年だけであったというのが経済の専門家間の定説である」と指摘している[77]。
「日本経済の低成長は需要不足ではなく、構造問題から生じている」という議論について、野口旭、田中秀臣は『「日本経済にデフレ・ギャップは存在しない。さらに、現実の失業率はすべて構造的失業である」と主張することに等しい』と指摘している[125]。田中秀臣は「名目賃金の下方硬直性の緩みが、日本の長期停滞が生み出した雇用システムの『痛み』である」と指摘している[126]。
リチャード・ヴェルナーは、構造問題が処理されていなかった1990年代以前において目覚ましい経済成長が認められるとして、構造問題を原因とする見方を批判している。ヴェルナーは、日本の不況の主因を銀行システムの不良債権問題だと考えている。ヴェルナーの言う不良債権問題は、処理の先送りではなくて信用収縮のことである[127]。
みずほ総合研究所は「サプライサイドの論者が指摘するように、生産性の高い企業・産業が、資源の供給不足によって成長が不可能になっている状態であれば、遊休資源としての失業は存在しないはずである。また、経済が需要不足ではなく供給の制約に直面しているのであれば、物価は下落せず上昇するはずである[128]」「1990年代を通して経済成長力を抑制し、その結果として需要不足を恒常化させている最大の原因は、一般物価・資産価格の持続的な下落(デフレ・資産デフレの進行)である[129]」と指摘している。
注釈
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- ^ みずほ総合研究所編 『3時間でわかる日本経済-ポイント解説』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2002年、18頁。
- ^ みずほ総合研究所編 『3時間でわかる日本経済-ポイント解説』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2002年、18-19頁。
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