バイオマーカー (薬学) バイオマーカーの分類と応用

バイオマーカー (薬学)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/17 12:37 UTC 版)

バイオマーカーの分類と応用

バイオマーカーは異なる方法で分類されうる。物性で分類する場合、イメージングバイオマーカー(CTPETMRI)や、分子バイオマーカーなどと分類される。分子バイオマーカーは、生物物理学的特性を持つ、イメージングバイオマーカー以外のものを述べるとき使われる。つまり、生体サンプル中(血漿血清脳脊髄液、気管支肺胞洗浄液、生体組織診断)に計測されうるものと、遺伝子突然変異遺伝的多型、定量的遺伝子発現の分析などに用いられる核酸由来のバイオマーカー、さらにペプチドタンパク質脂質代謝物や、その他の低分子化合物が分子バイオマーカーに含まれる。 応用で分類する場合は、診断用バイオマーカー(心筋梗塞診断のための心臓トロポニンなど)、疾患段階を判断するバイオマーカー(鬱血性心不全診断のための脳性ナトリウム利尿ペプチドなど)、疾患予後バイオマーカー(バイオマーカーなど)、治療処置に対する反応を見る目的のモニター用バイオマーカー(糖尿病治療におけるHbA1Cなど)などに分けられる。その他のカテゴリーとしては、初期医薬品開発における判断基準に用いられるバイオマーカーが挙げられる。例えば、薬力学(PD)バイオマーカーは特定の薬理学的反応を示すマーカーであり、投与方法最適化の研究で特に重要視される。

バイオマーカーの発見

分子バイオマーカーは、ゲノミクスプロテオミクスのような、基本的かつ好ましいプラットフォームを用いて発見されるものと定義される。多くのゲノミクスやプロテオミクス技術がバイオマーカーを発見するために利用可能であり、以下に具体例が挙げられる。ゲノミクスやプロテオミクスの他に、メタボロミクス、脂質を解析するリピドミクス、糖(グライコーム)を解析するグライコミクスなどがバイオマーカーを特定するための技術である。

遺伝子解析によるアプローチ

タンパク質解析によるアプローチ

メタボロミクスによるアプローチ

メタボロミクスとは近年導入された用語で、生体試料中の酵素蛋白質が作り出す全代謝物質の網羅的な解析を意味する。関連する用語として、特に薬や病気に対する代謝反応を表すメタボノミクスがある[4]。メタボノミクスは、複雑系に属し、様々な病気に対するバイオマーカーを特定するために使われ、近年生物学の主要な研究分野になってきた。一般に、多くの病気で代謝経路の一部が活性化または不活性化されるので、それを数値化することで特定の病気のバイオマーカーとすることができる。セロトニン生成経路は飲酒により不活性化されるので、セロトニンは最近の飲酒状況を知るための代謝物バイオマーカーとなりえる。

リピドミクスによるアプローチ

リピドミクスは脂質(リピド)の解析を意味する。脂質は特徴的な物理的性質を持つため、これまでは研究対象とすることが難しいとされてきた。しかし、測定環境の改善により、1つの試料からほとんどの脂質の代謝物を同定し、定量することが可能になってきた。脂質の解析には、質量分析法クロマトグラフィー核磁気共鳴分光法の3種類の鍵となる測定技術がある。質量分析法は、脂質抽出成分の高比重リポタンパク(HDL)粒子の濃度と構成を、冠動脈バイパス術を受けた患者と健常者の間で、相対的に比較するために用いられる。バイパス処置を受けた患者から採取されたHDL粒子中には、明らかにフォスファチジルコリンに対してスフィンゴミエリンの量が少なく、コレステロールエステルに対してトリグリセリドが多いことが知られている。またリピドミック・プロファイリングは、PPARγアゴニストであるロシグリタゾンの、マウスの脂質代謝への影響を調べるためにも使われる。ロシグリタゾンは色々な臓器で脂質の構成を変化させる。例えば、肝臓ではトリグリセリドの蓄積を増加させ、心臓と脂肪組織では遊離脂肪酸を変化させ、血漿中のトリグリセリドを減少させる。

医薬品開発における分子バイオマーカー

医薬品開発のために分子バイオマーカーは利用されている。主な分野として、初期医薬品開発研究、安全性研究、概念実証研究、分子プロファイリング研究などが挙げられる。初期医薬品開発研究では、例えば第一相試験における投与量と、続く第二相試験のための投与計画の決定などに分子バイオマーカーが用いられる。PDバイオマーカーは一般に、投与量に対して(増加、減少どちらかに)正比例に反応が現れる。得られたデータは安全性試験のデータと合わせて第二相試験の投与量を決定する根拠となる。加えて、安全性分子バイオマーカーが前臨床試験臨床試験の双方に数十年にわたり使われてきた。バイオマーカーを用いた試験が主流となってきたため、動物試験、臨床試験共に完全な自動化が進んだ。安全性試験の中で最も一般的に行われる例は、肝機能試験(アミノ基転移酵素ビリルビンアルカリフォスファターゼ)、腎機能試験(血清クレアチニンクレアチニンクリアランスシスタチンC)である。他の例としては、骨格筋ミオグロビン)または心筋(CK-MB、トロポニンIまたはT)障害試験、さらに骨バイオマーカー(骨に特異的なアルカリフォスファターゼ)が挙げられる。


  1. ^ Loukopoulos P., Thornton J. R. , Robinson W. F. (2003). “Clinical and pathologic relevance of p53 index in canine osseous tumors”. Veterinary Pathology 40: 237-248. 
  2. ^ Loukopoulos P., Mungall B.A., Straw R.C., Thornton J.R., Robinson W.F. (2003). “Matrix metalloproteinase-2 and -9 involvement in canine tumors.”. Veterinary Pathology 40: 382-394. 
  3. ^ Loukopoulos P., Shibata T., Katoh H., Kokubu A., Sakamoto M., Yamazaki K., Kosuge T., Kanai Y., Hosoda F., Imoto I., Ohki M., Inazawa J., Hirohashi S. (2007). “Genome-wide array-based comparative genomic hybridization analysis of pancreatic adenocarcinoma: Identification of genetic indicators that predict patient outcome.”. Cancer Science 98: 392-400. 
  4. ^ メタボノミクスの定義は定まっていないが、ここでは原文をそのまま翻訳する。


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