ジュズダマ ジュズダマの概要

ジュズダマ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/10 14:41 UTC 版)

ジュズダマ
ジュズダマ
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 単子葉類 monocots
階級なし : ツユクサ類 commelinids
: イネ目 Poales
: イネ科 Poaceae
: ジュズダマ属 Coix
: ジュズダマ C. lacryma-jobi
変種 : ジュズダマ C. l. var. lacryma-jobi
学名
Coix lacryma-jobi L. var. lacryma-jobi (1753)[1]
和名
ジュズダマ
英名
Job's tears
江戸時代の農業百科事典『成形図説』のイラスト(1804)

名称

和名のジュズダマは、かつて球形状の実(苞鞘)をつないで数珠の玉にしたことに由来する[2][3]。別名で、ズズ[2]、ズズゴ[4]、ツシダマ[2]、トウムギ[4]、地方によっては、ズウズク(千葉県)、スズ(和歌山県)、ボダイズ(岡山県)の方言名でも呼ばれる[2]

三秋の季語にもなっている[2]花言葉は「祈り」である[2]

川穀(せんこく)とも称するが[5]、これは食用種(ハトムギ)の別名とする資料や[6]、漢方薬・生薬名と解説する文献もみられる[7]

種小名及び英語名の「Job's Tear」は『ヨブの涙』を意味し、旧約聖書の登場人物ヨブにちなんでいる。

分類学

ハトムギ

食用品種のハトムギC. lacryma-jobi var. ma-yuen)は、ジュズダマを改良した栽培種である[2]。全体がやや大柄であること、花序や果実が垂れ下がること、実(つぼ)が薄くそれほど固くならないことが、原種ジュズダマとの相違点である[4]。ハトムギの実は卵形で光沢がなく、固くなくて指でつぶれる[7]。また薬効も異なる[7]

日本での細分類

江戸時代、小野蘭山は『本草綱目啓蒙』で「薏苡」について食用を二種、食用とせぬもの二種としており[8][9]、食用種はシコクムギとチョウセンムギとしている[9][注 1]

この二つは文献上では異なる変種であるが、きわめて近似種であり、"ハトムギは, [これら]食用種2種を総括した名称であることは, 明治10年 代の文献によってあきらか である"と述べられている[10]

チョウセンムギ

チョウセンムギは学名 C. lacryma-jobi var. koreanaが充てられているが[11]、この変種名は世界の植物分類学では流通性が乏しく、後述のWCSPFチェックリストでは未登録名である[12]。また、C. agrestisという別種として松村任三が記載しているが[13]、現在ではこれは別種でなくCoix lacryma-jobi var. lacryma-jobiの異名とされている[14]

蘭山によれば、真の薏苡であるシコクムギは皮は指でつまんで軽く押せば割れるほど柔らかいが[注 2]、日本に到来したのは享保年間である[9]。これを事実とするならば、享保以前の文献において日本での「薏苡」の消費に関わる記述は、皮は硬くて撃たねば割れないチョウセンムギ[9]のほうと解釈できる[15][注 3]

オニジュズダマ

日本古来の文献における非食用の2種は、ジュズダマとオニジュズダマで[9][10]、後者はC. lacryma-jobi var. maxima Makino という変種として牧野富太郎が発表し[16][17]、WCSPFチェックリストの登録名である(正名としては認められていない)[18][注 4]

世界標準的な分類

World Checklist of Selected Plant Familiesには以下の4変種が正名として登録されている[12]

  • Coix lacryma-jobi var. lacryma-jobiインドからマレー半島台湾にかけて広く分布、他の地域にも定着している。オニジュズダマ var. maxima は異名。
  • Coix lacryma-jobi var. ma-yuen (Rom.Caill.) Stapf。 ハトムギ
  • Coix lacryma-jobi var. puellarum (Balansa) A.Camus。アッサムから中国雲南省、インドシナに分布。
  • Coix lacryma-jobi var. stenocarpa Oliv.。ヒマラヤ山脈東部からインドシナ。

分布・生育地

インドシナインドネシアなどの東南アジアインドなどの熱帯アジア原産[7][19][20]

日本では本州から沖縄までの範囲に分布する[2]。主に水辺に生え、野原空き地湿地などに自生する[2][19]。日本には古くから食用にする有用植物として[4]、渡来したものが帰化したと考えられていて[19]、暖地の小川の縁などに野生化している[7]


注釈

  1. ^ ただし蘭山が「トウムギ」をチョウセンムギの正称としたのに対し、古川瑞昌 (1928–1977)はシコクムギ、トウムギを同類と見た[10]
  2. ^ "兩指ヲ以推寸ハ皮破ル"。対してチョウセンムギは"皮厚ク硬シ撃ザレハ破レズ"。完熟した実の色合いは、シコクムギは"淺褐微黒色"、チョウセンムギは"色褐ニテ微黒"。
  3. ^ 具体例としては、元禄十年初版 『農業全書』28)巻之二・五穀之類の薏苡第十九にある、粥、飯に混ぜる雑穀、だんごとしての利用、『和漢三才図会』の粥、寛永二十年に成立『料理物語』・第十八菓子の部の記述も小山 1996, p. 67ではチョウセンムギの事と解釈している。
  4. ^ したがってオニジュズダマ var. maxima はCoix lacryma-jobi var. lacryma-jobiの異名とされる。後述するように、オニジュズダマは修験者(山伏、"役小角ヲ信ズル者")がもちいる「イラタカの数珠」の材料となる[9][8]
  5. ^ AFP通信の報道では「ハトムギ」とされているが、原文ではこの食用品種だとは特定されていない。陶器に付着した澱粉や珪酸体の残留の分析により種を特定。
  6. ^ §3: "後に東北のイタコの数珠や、アイヌの頸飾くびかざりなどを見るようになって、ジュズとは呼びながらも我々の真似ていたのは、もっと古風な、また国風なものだったことに心づいたことである。"
  7. ^ 上述したように柳田 1953, §5では、小野蘭山『本草綱目啓蒙』を引用して"薏苡の目の下に食えるのを二種、食用とせぬもの二種を列記するが、後者は宿根であって荒野に自生し、実大きく皮いたって硬く、実中に自ら穴あって穿って貫珠となすべし"と述べている。
  8. ^ 上述したように、maxima という変種は、世界的に正名(accepted name)とされておらず、キューガーデン主催のWorld Checklist of Selected Plant Familiesデータベースでも C. lacryma-jobi var. lacryma-jobiの異名として登録されている[18]
  9. ^ アカ族は、山間部の種族だがタカラガイを交易で入手して使う(バンコク産のものを華僑の仲介で購入)と指摘される[43]
  10. ^ 国境を越えたインドネシアの北カリマンタンにも分布。

出典

  1. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Coix lacryma-jobi L. var. lacryma-jobi ジュズダマ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年3月26日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m 稲垣栄洋監修 主婦の友社編 2016, p. 143.
  3. ^ a b c d e f g h i 多田多恵子 2008, p. 49.
  4. ^ a b c d e f 主婦と生活社編 2007, p. 112.
  5. ^ a b 小清水卓二「別編 高殿出土植物遺品の調査」: 足立康; 岸熊吉 (1936), 日本古文化研究所報告, pp. 220?–, https://books.google.com/books?id=JXbQAAAAMAAJ&q=coix 
  6. ^ 川穀(せんこく). 日外アソシエーツ「動植物名よみかた辞典 普及版」
  7. ^ a b c d e f g h i j k l m 馬場篤 1996, p. 64.
  8. ^ a b c 柳田 1953, §5.
  9. ^ a b c d e f 蘭山小野先生 口授巻之十九/穀之二稷粟一(十八種[の第16)]」『重訂本草綱目啓蒙 48巻. [9]』和泉屋善兵衛 [ほか8名]、1847年、六–七頁https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2555639/16 
  10. ^ a b c 古川瑞昌『ハトムギの効用—ガンと美容と長寿にきく』、 六月社、1963年、30–45頁。小山 1996, p. 67で引用。
  11. ^ 小山 1996, p. 63.
  12. ^ a b Coix lacryma-jobi”. World Checklist of Selected Plant Families. Royal Botanic Gardens, Kew. 2020年12月22日閲覧。 (要クエリー検索・種名を入力。太字のみが正名、それら以外は異名。)
  13. ^ Matsumura, Jinzō (1905). Index plantarum japonicarum: sive, Enumeratio plantarum omnium ex insulis Kurile. Yezo, Nippon, Sikoku, Kiusiu, Liukiu, et Formosa hucusque cognitarum systematice et alphabetice disposita adjectis synonymis selectis, nominibus japonicis, locis natalibus. 2. Josefina Ramos (tr.). apud Maruzen. pp. 49–50. https://books.google.com/books?id=seAlAQAAMAAJ&pg=PA49 
  14. ^ Coix agrestis Lour., Fl. Cochinch.: 551 (1790)”. World Checklist of Selected Plant Families. Royal Botanic Gardens, Kew. 2020年12月22日閲覧。 (要クエリー検索・種名を入力)
  15. ^ 小山 1996, p. 67.
  16. ^ a b Makino, T. (1906), “Observations on the Flora of Japan (cont.)”, Botanical magazine 20: 11–10, https://books.google.com/books?id=9xlbPBO2OoYC&pg=RA2-PA12 
  17. ^ a b 牧野富太郎我が思ひ出(遺稿): 植物隨筆』北隆館、1958年、13頁https://books.google.com/books?id=juY9AQAAIAAJ&q=Coix 
  18. ^ a b Coix lacryma-jobi var. maxima Makino, Bot. Mag. (Tokyo) 20: 10 (1906)”. World Checklist of Selected Plant Families. Royal Botanic Gardens, Kew. 2020年12月22日閲覧。
  19. ^ a b c d e 多田多恵子 2008, p. 48.
  20. ^ a b c d e f 近田文弘監修 亀田龍吉・有沢重雄著 2010, p. 234.
  21. ^ a b c 多田多恵子 2008, p. 51.
  22. ^ a b 多田多恵子 2008, p. 50.
  23. ^ 多田多恵子 2008, pp. 50–51.
  24. ^ Wang, Jiajing; Liu, Li; Ball, Terry; Yu, Linjie; Li, Yuanqing; Xing, Fulai (2016). “Revealing a 5,000-y-old beer recipe in China”. Proceedings of the National Academy of Sciences 113 (23): 6444–6448. doi:10.1073/pnas.1601465113. PMC 4988576. PMID 27217567. http://www.pnas.org/content/early/2016/05/18/1601465113 2016年6月3日閲覧。. 
  25. ^ “5000年前のビール、出土の陶器から痕跡発見 中国”, AFP通信, (2016年5月24日), https://www.afpbb.com/articles/-/3088121 
  26. ^ Nesbitt, Mark (2012) [2005]. “Grains”. In Prance, Ghillean; Nesbitt, Mark. The Cultural History of Plants. Routledge. pp. 53, 343–344. ISBN 9781135958114. https://books.google.com/books?id=niwsBgAAQBAJ&pg=PA53 
  27. ^ Simoons 2014, p. 81.
  28. ^ “房総における原始古代の農耕―各時代における諸問題2―”, 千葉県文化財センター研究紀要 23, http://www.echiba.org/pdf/kiyo/kiyo_divi/kd023/kiyo_023_p1.pdf 
  29. ^ a b 高橋護「考古学とプラント・オパール分析の利用」『水田跡・畑跡をめぐる自然科学―その検証と栽培植物-』、第9回東日本の水田跡を考える会(資料集)1999年[28]
  30. ^ 高橋護 著「第2節:板屋III遺跡におけるプラント・オパール分析による栽培植物の検出結果とその考察」、島根県教育庁埋蔵文化財調査センター 編『板屋III遺跡 2 縄文時代~近世の複合遺跡の調査』〈志津見ダム建設予定地内埋蔵文化財発掘調査報告書20〉2003年、227頁https://sitereports.nabunken.go.jp/files/attach_mobile/3/3054/2383_3_%E6%9D%BF%E5%B1%8BIII%E9%81%BA%E8%B7%A12%E7%B8%84%E6%96%87%E6%99%82%E4%BB%A3%EF%BD%9E%E8%BF%91%E4%B8%96%E3%81%AE%E8%A4%87%E5%90%88%E9%81%BA%E8%B7%A1%E3%81%AE%E8%AA%BF%E6%9F%BB.pdf 
  31. ^ 後藤守一伊豆山木遺跡 : 弥生時代木製品の研究』築地書館、1962年、94頁。doi:10.11501/3025934https://books.google.com/books?id=uZzRAAAAMAAJ&q=オニジュズダマ 
  32. ^ 小山 1996, p. 65.
  33. ^ a b c 落合 2010, p. 11.
  34. ^ a b 落合 2010, p. 14.
  35. ^ a b 柳田 1953, §3.
  36. ^ 松岡恕庵1726『用薬須知』巻之二 ・草部: "念珠二作テ小児ノ翫戯トス"。小山 1996, p. 65
  37. ^ a b 柳田 1950, §2
  38. ^ 柳田 1950, §3の地図。 Jackson (1917) Shells as Evidence of the Migrations of Early Culture より転載。
  39. ^ 岩田 1991, pp. 17–18.
  40. ^ 落合 2010, pp. 4–5のジュズダマ装飾具のコレクション・マップも参照。落合 2010, p. 14でも柳田の「海上の道」説、タカラガイとの関連説に触れている。
  41. ^ Ochiai 2002, p. 61; 落合 2010, pp. 8–9
  42. ^ a b 落合 2010, pp. 8–9.
  43. ^ a b 岩田 1991, p. 16.
  44. ^ 落合 2010, p. 6.
  45. ^ Beccari, Odoardo (1904). Wanderings in the Great Forests of Borneo: Travels and Researches of a Naturalist in Sarawak. London: Archibald Constable. p. 281. https://books.google.com/books?id=3BFqDoavHMIC&pg=PA281 
  46. ^ Guerrero, León María (1989). Notes on Philippine Medicinal Plants. Josefina Ramos (tr.). p. 191. https://books.google.com/books?id=GeQkAQAAMAAJ&dq=adlay 
  47. ^ a b c Brown, William Henry (1919). Wanderings in the Great Forests of Borneo: Travels and Researches of a Naturalist in Sarawak. Manila: Bureau of printing. p. 281. https://books.google.com/books?id=3BFqDoavHMIC&pg=PA281 
  48. ^ Lim (2013), p. 243.
  49. ^ 落合 2010, p. 10.


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