POWER [1] (パワー)は、Power Architecture をベースとした、IBM のRISC マイクロプロセッサ (CPU ) のシリーズである。
当初は32ビット であったが、POWER3 以降は64ビット 化された。また派生製品に PowerPC がある。2023年4月時点の最新版はPOWER10 である。
特徴として、比較的低いクロック で性能を発揮できるため、同じ性能ならば消費電力や発熱量を抑えられ、また動作周波数を引き上げる事により更なる性能向上が容易である。このためIBMなどのスーパーコンピュータ 、UNIX ワークステーション 、オフィスコンピュータ などで使用されている。
歴史
POWER 系列
POWER アーキテクチャの祖先として70年代の IBM 801 、80年代の IBM RT-PC 用 ROMP プロセッサがあるが、POWER という名称が登場したのは1990年 の POWER1 ( パワー・ワン ) が最初である。POWER1 は80万個のトランジスタ を実装していた。
POWER2 ( パワー・ツー ) が1993年 に登場し、浮動小数点 ユニットとキャッシュが増強された1998年 まで現役を務めた。なお、1997年 に世界チェス チャンピオンのガルリ・カスパロフ を初めて破って有名になったスーパーコンピュータ 「ディープ・ブルー 」は、POWER2 (ならびにチェス専用プロセッサ)を搭載していた。
POWER3 ( パワー・スリー ) は、1998年 に登場した。POWER1 と PowerPC 両者との完全な互換性を有する、POWER シリーズ初の完全な64ビットプロセッサである。POWER2 と POWER3 はともに1500万個のトランジスタを実装した。
POWER4 ( パワー・フォー ) は、2001年 に登場した。デュアルコア 技術が採用され、1チップでSMP システムが構築可能となった。0.18ミクロン製造プロセスルールと SOI 技術により、1プロセッサあたり1億7400万個ものトランジスタが実装されている。また、POWER3 と同様に POWER アーキテクチャおよび PowerPC アーキテクチャ双方との互換性が保たれており、POWER4 のコアに VMX を追加したものが PowerPC 970 (PowerPC G5 )のコアとしても使われている。POWER4 の登場によって、Star 系列 (RS64系列、後述)プロセッサの歴史に幕が下ろされた。
POWER5 ( パワー・ファイブ ) は、2004年 に登場した。同時マルチスレッディング (SMT)などの新技術を取り入れたものである。
POWER6 ( パワー・シックス ) は2007年 5月21日 に発表された。アウト・オブ・オーダー実行 機能の一部を削除するかわりに、消費電力をあまり増加させずにクロックを2倍に引き上げ初めて 4 GHz に到達し、その後 5 GHz のプロセッサーが発表されている。VMX 、十進浮動小数点演算 機能などの技術も取り入れている。消費電力は1スレッドあたり35W。[1]
POWER7 ( パワー・セブン ) は、2010年 2月8日 に発表された。POWER7 は4、6、8コアの版があり、同時マルチスレッディングにより各コアで最大4つのスレッドを処理し、前身の POWER6 とバイナリ互換を保つ。プロセッサーあたりのコア数は最大で4倍に増え、プロセッサー上に最大32MB L3 eDRAM キャッシュを統合しているが、消費電力は POWER6 とほぼ同等である。
POWER7+ ( パワー・セブンプラス ) は、2012年 10月 に発表された。POWER7からの45nmプロセスから32nmプロセスにシュリンクすることで、クロックが高速化されL3キャッシュが最大80MBに増加した。一方でTurboCoreモードは削除された。
POWER8 ( パワー・エイト ) は、2014年 4月24日 に発表された[2] 。POWER8 は6、8、10、12コアの版があり、同時マルチスレッディングにより各コアで最大8つのスレッドを処理する、 POWER7 後継プロセッサである。プロセッサーあたりのコア数は最大で1.5倍に増え、プロセッサー上に 96MB L3 eDRAM キャッシュを統合している。
POWER9 ( パワー・ナイン ) は、2016年 9月のHot Chips 28で発表された[3] 。POWER9は14nmプロセスで作られ80億トランジスタ、プロセッサー上に120MB L3 eDRAM キャッシュを統合し、SMT4またはSMT8のコアを最大12コア搭載。
POWER9 AIO ( パワー・ナイン・エーアイオー ) 2019年 8月のHot Chips 31で発表された[4] 。POWER9から、インターフェイスの高速化が施されている。
POWER10 ( パワー・テン ) は、2020年 8月のHot Chips 32 で発表された[5] 。POWER10は7nmプロセスで作られ180億トランジスタ、プロセッサー上に120MB L3キャッシュを統合し、SMT8のコアを最大15コア搭載。
RS64系列
PowerPC アーキテクチャを元に、商用 UNIX システムに必要な整数演算性能に最適化されたプロセッサファミリーがRS64系列 である。開発用コードネームは星にちなんだ名前または最後が「star 」か、それに似た音で終わる語が選ばれていたため「Star プロセッサ 」とも呼ばれる。その名が示すように最初の実装からすべて64ビットであった。
RS64 (1997年 発表)、RS64 Ⅱ (1998年 発表)、RS64 Ⅲ (1999年 発表)、RS64 Ⅳ (2001年 発表)がある。RS64 Ⅳ では POWER ファミリのプロセッサとしては初めてハードウェアマルチスレッディング 機能を搭載した機種である。
長らくRS/6000 シリーズおよびその後継の pSeries 、AS/400 シリーズおよび後継の iSeries の上位機種のプロセッサとして君臨したが、より高速な POWER4 にその座を譲ることとなった。
脚注
^ 英語「p erformance o ptimization w ith e nhanced R ISC 」に由来
^ オープン・イノベーションでビッグデータの課題に挑むPOWER
^ Hot Chips 28 - コグニティブの時代に対応する新時代CPU「POWER9」
^ 株式会社インプレス (2019年8月23日). “【後藤弘茂のWeekly海外ニュース】 AMDやIBM、Armが「Hot Chips 31」でCPUアーキテクチャを公開 ”. PC Watch . 2021年3月8日 閲覧。
^ 日経クロステック(xTECH). “IBMが7nm世代のプロセッサー「POWER10」、21年後半登場 ”. 日経クロステック(xTECH) . 2021年3月8日 閲覧。
関連項目
外部リンク