Harvard_Mark_Iとは? わかりやすく解説

Weblio 辞書 > 辞書・百科事典 > 百科事典 > Harvard_Mark_Iの意味・解説 

Harvard Mark I

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/12 03:17 UTC 版)

Harvard Mark I の一部(左側)
右側
入出力制御部

Harvard Mark I (ハーバード マーク ワン) は、IBMASCC[1]とも呼ばれ[2]アメリカ初の電気機械式計算機である。

電気機械式のASCCはハワード・エイケンが考案し、IBMが製作し、ハーバード大学1944年2月に出荷された。当初、アメリカ海軍の船舶局が計算に使用し、正式に大学に引き渡されたのは1944年8月7日である。

設計と構成

ASCCを構成しているのはスイッチリレー、歯車式の計算装置(タイガー計算器などの計算部分のような機構。英語版記事 en:Pinwheel calculator などを参照)、クラッチなどである。765,000個の電気機械部品[3]と数百kmの電線を使って作られ、全長16m、高さ2.4m、奥行きは約60cmである。その重量は約4.5tであった。基本計算装置は機械的に同期して動作するため、15.5mの軸で接続されていて、4kW(5馬力)の電動モーターで駆動される。IBMのアーカイブには次のように記されている。

Automatic Sequence Controlled Calculator (Harvard Mark I) は長い計算を自動的に実行できる世界初の機械だった。プロジェクトはハーバード大学のハワード・エイケン博士の設計を基にしており、IBMの技術者が構築を行った。計算機を格納する鋼製のフレームは長さ16m、高さ2.4mで、そこに深さ数インチの連動パネルが重ねて設置されていて、各パネルに小さな歯車、カウンタ、スイッチ、制御回路などが配置されている。ASCCは総延長800kmの電線を使っており、300万箇所を電線で相互接続し、3,500個の多極リレー、35,000個の接点、2,225個のカウンタ、1,464個の十極スイッチ、72個の加算機(精度は23桁)で構成されている。それは産業界では最も大きな電気機械式計算機であった。[4]

Mark I の筐体(フレームカバー)はインダストリアルデザイナーのノーマン・ベル・ゲデス英語版のデザインだった。エイケンはこのような精巧な筐体は資源の浪費だと考えており、戦時中の計算需要の高さから、筐体に払う金(グレース・ホッパーによれば50万ドル)があったら追加の計算装置を構築できたのにと言っていた[5]

動作

Mark I には、24個のスイッチが60セットあり、それらを使って手動でデータを入力する。23桁の十進数を72個格納でき[6]、一秒間に3回の加算または減算ができる。乗算には6秒かかり、除算は15.3秒、対数や三角関数の計算には1分以上かかった。

Mark I は24チャンネルのさん孔テープから命令を順次読み取り、実行する。条件分岐命令はなく、複雑なプログラムは物理的にも長いテープを必要とした。ループはプログラムの記されているテープの終端をテープの先端に物理的につなげて本当にループを形成させていた。このようにデータと命令を分離することをハーバード・アーキテクチャと呼ぶ。Mark I の最初のプログラマはリチャード・ミルトン・ブロック、ロバート・キャンベル、グレース・ホッパーであった[7]

命令フォーマット

24チャンネルの入力テープは、それぞれ8チャンネルの3フィールドに分割されている。各アキュムレータ、各スイッチ群、入出力に対応しているレジスタ群、演算装置にはそれぞれ一意なインデックス番号が付与されている。それらの番号が制御テープ上で二進法で表現されている。第1フィールドは操作の結果が格納される場所のインデックス番号を二進法で表したもので、第2フィールドは操作の元となるデータが格納されている場所(のインデックス番号を二進法で表したもの)、第3フィールドは実行すべき操作に対応する「命令コード」である[6]

エイケンとIBM

エイケンは報道機関への発表で、自身が単独で Mark I を「発明」したと記した。実際にはクレア・レイクやフランク・ハミルトンといったIBMの技術者も様々な部品の設計を助けていたが、エイケンが発表の中で触れたIBMの人物はジェームズ・W・ブライス英語版だけだった。トーマス・J・ワトソンはこれに怒り、1944年8月7日の開所式にもしぶしぶ出席した[8][9]。エイケンはその後、IBMの支援を得ずに後継機を構築することを決め、ASCCは一般に Harvard Mark I の名で知られるようになった。その後IBMはSSEC[10]の開発に向かい、新技術の評価を行うと同時に世間の注目を集めようとした[8]

後継

その後 Mark I の後継として、Mark II英語版(1947年または1948年)、Mark III/ADEC(1949年9月)、Mark IV英語版(1952年)が開発された。全てエイケンの仕事である。Mark IIMark I を改良したものだが、相変わらず電気機械式のリレーを使っている。Mark III は、大部分を真空管やクリスタル・ダイオードなどの電子部品で構成し、Mark IV では完全に電子化され半導体部品を使っている。Mark IIIMark IV磁気ドラムメモリを使い、Mark IV はさらに磁気コアメモリを使っていた。Mark IIMark IIIアメリカ海軍の基地に納入された。Mark IV はアメリカ空軍のために製作されたが、ハーバードに残された。

Mark I はすでに分解されているが、その一部はハーバードのキャボット・サイエンス・センター[11]に残されている。

脚注

  1. ^ : Automatic sequence Controlled Calculator
  2. ^ ハードウェアそのものに掲げられている名称は Aiken-IBM Automatic Sequence Controlled Calculator Mark I である。(Wilkes 1956, pp. 16)に掲載されている初期の写真には IBM Automatic Sequence Controlled Calculator とある。
  3. ^ : electromechanical components
  4. ^ IBM Archives: FAQ / Products and Services
  5. ^ Computer Oral History Collection, 1969-1973, 1977 Grace Murray Hopper Interview, January 7, 1969, Archives Center, National Museum of American History
  6. ^ a b Wilkes 1956, pp. 16–20
  7. ^ Wexelblat, Richard L. (Ed.) (1981). History of Programming Languages, p. 20. New York: Academic Press. ISBN 0-12-745040-8
  8. ^ a b Emerson W. Pugh (1995). Building IBM: Shaping an Industry and Its Technology. MIT Press. ISBN 9780262161473. https://books.google.co.jp/books?id=Bc8BGhSOawgC&redir_esc=y&hl=ja 
  9. ^ Campbell-Kelly & Aspray 1996, p. 74
  10. ^ : Selective Sequence Electronic Calculator
  11. ^ : Cabot Science Center

参考文献

関連項目

外部リンク


「Harvard Mark I」の例文・使い方・用例・文例

Weblio日本語例文用例辞書はプログラムで機械的に例文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「Harvard_Mark_I」の関連用語

Harvard_Mark_Iのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



Harvard_Mark_Iのページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのHarvard Mark I (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。
Tanaka Corpusのコンテンツは、特に明示されている場合を除いて、次のライセンスに従います:
 Creative Commons Attribution (CC-BY) 2.0 France.
この対訳データはCreative Commons Attribution 3.0 Unportedでライセンスされています。
浜島書店 Catch a Wave
Copyright © 1995-2025 Hamajima Shoten, Publishers. All rights reserved.
株式会社ベネッセコーポレーション株式会社ベネッセコーポレーション
Copyright © Benesse Holdings, Inc. All rights reserved.
研究社研究社
Copyright (c) 1995-2025 Kenkyusha Co., Ltd. All rights reserved.
日本語WordNet日本語WordNet
日本語ワードネット1.1版 (C) 情報通信研究機構, 2009-2010 License All rights reserved.
WordNet 3.0 Copyright 2006 by Princeton University. All rights reserved. License
日外アソシエーツ株式会社日外アソシエーツ株式会社
Copyright (C) 1994- Nichigai Associates, Inc., All rights reserved.
「斎藤和英大辞典」斎藤秀三郎著、日外アソシエーツ辞書編集部編
EDRDGEDRDG
This page uses the JMdict dictionary files. These files are the property of the Electronic Dictionary Research and Development Group, and are used in conformance with the Group's licence.

©2025 GRAS Group, Inc.RSS