C・K・O訳論考へのウィトゲンシュタイン自身の評価
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「論理哲学論考」の記事における「C・K・O訳論考へのウィトゲンシュタイン自身の評価」の解説
論理哲学論考は、まず1921年にドイツの物理学年鑑に掲載された後、翌年1922年、バートランド・ラッセルの序文と共に、チャールズ・ケイ・オグデンを中心に進められた英訳を併記した独英対訳書として、イギリスのキーガン・ポール社から出版された。この英訳についてオグデンはウィトゲンシュタインの直接の関与によって注意深くなされたと主張しており、実際にウィトゲンシュタインの校訂の入った稿本も残っている。しかしウィトゲンシュタインの小伝を書いたG.H.フォン・ウリクトは、その小伝でウィトゲンシュタイン自身から正反対の評価を直接に聞いたと主張し、原文の意味を台無しにする誤訳が多いとして早期の訂正を提言している。ウィトゲンシュタイン自身による具体的な指摘の内容は不明であるが、参考例として、 命題 1のドイツ語原文は、 Die Welt ist alles, was der Fall ist. である。太字で強調した箇所は、当事者性の強い、現場の状況についての言及であることを強調する表現である。これに対するオグデン訳は、 The world is everything that is the case. である。ちなみに命題 1.1のオグデン訳は The world is the totality of facts, not of things. である。これからすると命題 1でオグデンの使用している everything は適当な訳語とは言い難い。この箇所における邦訳では、中央公論社『世界の名著』訳では「その場に起こること」、大修館書店『ウィトゲンシュタイン全集訳』では「実情」という表現を使ってドイツ語原文の持つ状況性を表現している。これに対してオグデン訳を邦訳すると「世界はそうである もの の全てである」というような意味にしかならないであろう。これは、ウィトゲンシュタインが拒絶したラッセルによる『論考』の論理的原子論解釈の影響であるかも知れないが、ともかくも1961年には同出版社から新しい英訳『論考』が出版されている。
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