魯迅との関係
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/07 05:24 UTC 版)
紅梅が翻訳を行った改造社版『魯迅全集』については、魯迅が「誤訳が多い」「(先行する佐藤春夫・増田渉訳を参照していないのは)実にひどいやりかただ」と酷評したことで知られる。 魯迅の酷評については、いわゆる「シナ通」としての紅梅を嫌ったのではないかという見解を三石善吉が示している。魯迅は愛弟子といえる増田渉に書き送った書簡の中で、紅梅の随筆『酒・阿片・麻雀』を読み、紅梅とは「道が違う」という思いを新たにしたと記している。 紅梅の事績を検討した勝山稔によれば、「シナ通」に対するネガティブな評価に、魯迅が翻訳を酷評したという「汚名」が加わり、中国文学研究界隈では「紅梅の著作を学問的な俎上に載せること自体半ば禁忌とさえなっている観がある」という。 しかし勝山の検討によれば、『魯迅全集』についての不満は、増田宛の書簡にほぼ限って見られるもので、同じように翻訳を手掛けながらも機会に恵まれなかった増田を慰め、奮起させようとする文脈での言葉であろうとする。増田の言によれば、魯迅は激しい愛憎の情を表に出す人物であったが、『魯迅全集』が出版された後も紅梅や改造社に対して友好的に接しており、紅梅個人への敵愾心はなかったであろうという。魯迅から紅梅を酷評する書簡を受け取った当の増田は、魯迅死後の出版企画『大魯迅全集』の編集責任者となった際に紅梅を招聘した。また、増田が魯迅書簡を公開した際も、紅梅批判の箇所を長らく封印し、公開後も注記を付して意を払った。勝山は、「魯迅の酷評」が絶対的なものでも魯迅周辺で共有されていたわけではなかったと指摘する。 勝山によれば、紅梅の翻訳はもちろん問題がないわけではなく、後発の訳に比べれば劣るものの、同時期の増田の訳と比較しても極端に「問題のある誤訳」が多いわけではないという。むしろ、参照できる先行翻訳がほとんどないまま多数の翻訳を行った紅梅を、肯定的に見てもよいのではないかとしている。
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