順位逆転現象
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2015/09/25 06:52 UTC 版)
評価基準あるいは代替案の属性による代替案の順位付けは一般的な意味で意思決定理論の一部である。確かに、意思決定のプロセスにおいて、後から新しい代替案が追加されたとしても、元からある代替案間で順位変動は起こらない、すなわち順位逆転現象は起こらないということは、(AHPを含め)意思決定手法に必須の公理とも思える。 しかしこの仮定の妥当性はいささか疑わしいものがある。事実、一般的な意思決定場面において、新しい代替案を追加することで、元からある代替案間での順位変動が起こる場合がある。このような順位逆転現象は頻繁に起こる訳ではないが、この現象が起こる可能性は意思決定問題に活用される手法の、あるいは様々な決定理論における十分に論理的な含意であり、潜在的な前提であるといえる。 2000年のアメリカ合衆国大統領選挙は、順位逆転現象を理解する上での好例である。実際ラルフ・ネイダーは、民主党、共和党いずれの候補者からも劣勢にあったことから、当初は”無関係な”代替案だったといえる。ところが彼が後に共和党より民主党に投票していた人たちからのたくさんの票を獲得したことで逆転現象が起こった(訳者注:ジョージ・ブッシュ・Jrが勝利した)。ネイダーが立候補していなければ、アル・ゴアが勝っていたことは誰もが認めるところであり、いわば当初「無関係」であった彼の存在が順位逆転現象を引き起こしたと説明できる。1992年のジョージ・ブッシュの敗北にロス・ペローが与えた影響についても同様のことが言える(訳者注:ビル・クリントンが勝利した)。 順位逆転現象への対処には2つの方向性がある。1つは、評価基準が変わらないのであれば、代替案が新しく追加されようとも、元からある代替案間での順位逆転現象は絶対に起こるべきではないというもの。そしてもう1つが、妥当でない順位逆転現象がある一方で、起こるべくして起きる順位逆転現象もあることを認めるものである。AHP の最新バージョンでは、これらいずれの立場にも対応できるよう2つのモードが用意されている。どんな場合でも順位逆転現象を絶対に起こさないIdeal モードと、場合によっては順位逆転現象を認めるDistributive モードである。AHPを活用するにあたりどちらのモードを取るかは、意思決定者の立場、あるいは検討する問題の性格により決めることになる。 順位逆転現象と理想代替案については、学術雑誌Operations Researchで広範にわたり議論されている。またAHP の現時点での標準的テキストとされる書籍ではRank preservation and reversal という章にて扱われている。なお後者には、AHPの枠組みを超えて、一般によく知られる順位逆転現象の例が掲載されている。コピー代替案あるいはそれに近い代替案を追加することにより起こる順位逆転現象、決定ルールの非推移性により起こる逆転現象、幻とおびき寄せ代替案を追加することにより起こる逆転現象、そして効用関数におけるスイッチング現象による逆転現象である。AHPの DistributiveモードとIdealモードについてもその書籍で紹介されている。
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