金剛場陀羅尼経とは? わかりやすく解説

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金剛場陀羅尼経


金剛場陀羅尼経

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/09 14:09 UTC 版)

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金剛場陀羅尼経(こんごうじょうだらにきょう)は闍那崛多が漢訳した雑密経典である[1]。本項では日本の文化庁が保管する、同経の飛鳥時代の写本について述べる。

写本

一巻からなる飛鳥時代後期(白鳳期)の写経が日本の国宝に指定されている[2]。縦26.1cm[2]、全長7.12m[2]または688.7cm[1]。現存する日本最古の写経[1]。紙に書かれた現存する日本の文献として最古に類し、聖徳太子筆とされる三経義疏に次ぐとされる[3]。1951年6月9日に国宝に指定[4]。「小川本金剛場陀羅尼経」とも呼ばれる[5]

料紙は縦26センチ、長さ46センチほどの麻紙を用い、淡墨界を引き、1行17字に書写する[6]。料紙は15紙をつなぎ、行数は1紙あたりおおむね27行とする。ただし、誤植の手直し等を行ったためか、行数が27より少ない料紙もある[7]。巻末の第15紙には、本文と同筆で、以下の奥書(願文)が書写される[8]

歳次丙戌年五月、川内国志貴評内知識、為七世父母及一切衆生、敬造金剛場陀羅経一部、藉此善因往生浄土終成正覚。教化僧宝林。
(読み下し)歳(ほし)は丙戌に次(やど)る年の五月、川内国志貴評(しきのこおり)内の知識、七世父母及び一切衆生の為、敬(つつし)みて金剛場陀羅経一部を造る、此の善因を藉(か)りて浄土に往生し終に正覚を成さんことを。教化僧宝林。

「川内国」は「河内国」に同じ。「志貴評」は、大阪府八尾市付近を指す地名と推定される。同市には「志紀」の地名が残る[9]。「知識」とは仏教を信じ、その教化活動に協力する者の集団を意味する[10]

「丙戌年」については、686年、746年などが該当するが、「郡」の意味で「評」字を用いるのは、律令制度以前の用字であることから、本経の書写年次は大宝令以前の686年(朱鳥元年)とするのが定説である[11][12]。この写経が、浄御原律令下に「評(コオリ)」という地方組織の単位があったことを示す史料の一つでもある[1]

玄奘に指導を受けた道照が持ち帰ったものではないかとされる[13]。「法隆寺一切経」の黒印があることから法隆寺に伝来していたと考えられるが[2][1]、巷間に流出して個人蔵となっていた[14]。2005年に文化庁が京都市の個人から5億4000万円で購入した[15]

書風

中国・六朝時代の書風を留めている[2][1]とともに、初唐の書風がとり入れられており[1]欧陽詢[1]もしくは欧陽通欧陽詢親子の影響が見られる[16][17]

書道史研究者の魚住和晃は、字形の分析結果をふまえ、本経の書体は写経体ではなく、初唐の欧陽詢の書風に近いとする。また、「長谷寺銅板法華説相図」の銘の書体との類似も指摘されている。「教化僧」の「宝林」が本経の筆者であるか否かは不明である。前出の魚住和晃は、「郡」の意味で「評」字を用いるのは朝鮮の用法であるから、筆者は朝鮮系の渡来人であろうと述べている[18]

脚注

  1. ^ a b c d e f g h 奈良国立博物館『奈良朝写経』p19 1983年
  2. ^ a b c d e 山本信吉『国宝大事典 全五巻 三 書跡・典籍』p28 1986年
  3. ^ 松平年一奈良時代寫經所論攷 史学 22(1), P 25, 1943-09
  4. ^ 昭和27年1月12日文化財保護委員会告示第2号(指定は昭和26年6月9日付)
  5. ^ 石塚晴通, 池田証寿, 高田智和, 岡墻裕剛, 斎木正直 漢字字体規範データベース(HNG)の活用 ―漢字字体と文献の性格― じんもんこん2011論文集 2011-12-03
  6. ^ (湯山、1999)、p.285
  7. ^ (魚住、2010)、p.86
  8. ^ (魚住、2010)、p.104
  9. ^ (魚住、2010)、pp.104 - 105
  10. ^ (魚住、2010)、p.105
  11. ^ (湯山、1999)、p.285
  12. ^ (魚住、2010)、pp.87 - 88
  13. ^ 松永有慶『密教の歴史』p161,162
  14. ^ (魚住、2010)、p.86
  15. ^ 政府調達提供データ 016 文部科学省
  16. ^ 高井恭子 写経で用いる書体について 印度學佛教學研究 52(1), 237-241, 2003-12-20
  17. ^ 名児耶明『書の見方: 日本の美と心を読む』p41
  18. ^ (魚住、2010)、pp.95, 105

参考文献

  • 『週刊朝日百科日本の国宝』99、朝日新聞社、1999(金剛場陀羅尼経の解説は湯山健一)
  • 魚住和晃『「書」と漢字』(講談社学術文庫)、2010(原著発行は1996)

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