血液脳脊髄液関門
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/03/16 03:10 UTC 版)
血液脳脊髄液関門(blood-cerebrospinal fluid barrier、BCSFB)は血液脳関門とともに知られている脈絡叢に存在するバリアーである。脳室周囲器官である脈絡叢内の毛細血管は有窓性であり、血管内物質は毛細血管壁を通過して脈絡叢内の間質に移行しうるが、その血管周囲腔にある上皮細胞には脳室側に密着結合が存在している。この上皮細胞によって脈絡叢内と脳室内との間における高分子量物質の移行が制限されておりこの機能が血液脳脊髄液関門と考えられている。なお、脳室内の物質がエンドサイトーシスによって上皮細胞に取り込まれ、密着結合を迂回して細胞間腔、あるいは基底側へと輸送される経路は残る。さらに脈絡叢上皮にも物質の異動を制限するだけでなく、選択的に取り込むための輸送体が備わっており、特定の物質の移行を可能にしている。脳室内の脳脊髄液と脳実質との間には上衣細胞(ependiomocyteまたはependymal cell)が存在するが、この上衣細胞には密着結合が存在すること、陰性電荷の存在すること、密着結合種々の接着因子が発現し、酵素活性の存在などが指摘されており、上衣細胞が脳脊髄液脳関門(cerebrospinal fluid-brain barrier、CSFBB)を形成することによって、物質の移動にある程度の制限をかけていると推測される。しかし脳脊髄液脳関門のバリアー機能は不完全なものであり水や低分子化合物は両方向性に通過可能である。しかしながら脳脊髄液に含まれる高分子量物質の脳実質への移動に関しては制限されているという意見もある。また脳表においてくも膜下腔の脳脊髄液と脳実質細胞外液は軟膜によって隔絶されている。しかし軟膜には密着結合はなく、水や低分子化合物は通過可能である。くも膜下腔の動脈も軟膜(脳実質から続く血管周囲鞘と融合)で覆われており、ここでも血管周囲腔に存在する脳実質細胞外液とくも膜下腔の脳脊髄液との交換が生じる。 血液脳関門は分子量が450Da以上の分子は通過させないが水分子に関しては自由に通過することができる。上衣細胞に存在する脳脊髄液脳関門も高分子に関しては制限があると考えられているが水分子に関しては自由に通過できる。このことから脳脊髄液の産出と吸収に関する毛細血管説では脳脊髄液と脳実質細胞外液を一括で捉える。 血液中に全身投与された薬物が脳実質に送達されるには脳毛細血管から血液脳関門を経細胞経路または傍細胞経路を通過して脳実質の細胞外液(ISF)に移行する経路と脈絡叢動脈から血液脳脊髄液関門を通過し脳室内の脳脊髄液に移行しさらに脳脊髄液脳関門を通過して脳実質の細胞外液に移行する経路が考えられる。血液脳関門の表面積は血液脳脊髄液関門に比べて5,000倍も大きいことから薬物輸送経路としてはBBBの方が優れている。さらに血液脳関門を構成する脳毛細血管は脳内を網目状に巡っていることから血液脳関門を通過した薬物は脳神経細胞に到達しやすい。一方、血液脳脊髄液関門を構成する脈絡叢を通過した薬物は脳脊髄液中に移行する。脳脊髄液中から遠い部位への移行は著しく制限を受ける。特に分子量の大きい蛋白質医薬品や核酸医薬品は拡散による移行はほとんど期待できない。
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