苦悩するランスロット像
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/09 02:39 UTC 版)
『薤露行』では、ギニヴィア(グィネヴィア)、シャロットの女、エレーンという3人の女性を描きながら、その対象であるランスロットの魅力を逆説的に浮かび上がらせている。漱石は、『薤露行』と同じ1905年に『幻影の盾』を執筆しており、こちらはアーサー王伝説に直接取材した作品とはいえないが、漱石が書いたもう一つの騎士道物語であり、主君への忠誠と激しい恋愛との狭間で苦悩する騎士の姿は『薤露行』のランスロットと共通している。また、漱石が晩年近くに書いた『こゝろ』では、「お嬢さん」をめぐって「先生」とその幼馴染の「K」という三角関係が描かれ、アーサー王的位置にあったKが自殺した結果、先生(ランスロット)とお嬢さん(ギニヴィア)が結ばれてしまうという展開をたどる。このように、アーサー王伝説は日本で独自の解釈を経て造形され、浸透しているとも考えられる。 大岡は、『薤露行』のモチーフとプロットの構成から、解決されない最大のものとしてランスロットの行方を挙げている。シャロットの女の呪いを受けた彼は本来死ななければならない存在だが、最期の模様は書かれず、行方不明としてぼかされている。その理由として、ランスロットの死は、原作のアーサー王物語でランスロットがその後も活躍することと矛盾してしまうことがある。そこで大岡は、エレーンの小舟を導く白鳥をランスロットの化身とする解釈を示している。ランスロットには「白き兜の挿毛」という漱石独自の描写があり、白鳥に化身する伏線になり得る。また、漱石が1905年7月に『琴のそら音』を書いた雑誌「七人」には、「白鳥の騎士」を扱ったワーグナーの歌劇『ローエングリン』のテクストが掲載されていた。
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