老人性全身性アミロイドーシスとは? わかりやすく解説

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野生型トランスサイレチンアミロイドーシス

(老人性全身性アミロイドーシス から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/04/11 17:00 UTC 版)

野生型トランスサイレチンアミロイドーシス: wild-type transthyretin amyloidosisATTRwtアミロイドーシス)は、老人性全身性アミロイドーシス: senile systemic amyloidosisSSA)としても知られ[1]、一般的には高齢者の心臓に影響が生じる疾患である。この疾患は野生型の(すなわち正常な、変異を有さない)トランスサイレチンの蓄積を原因とする。この点で関連疾患である遺伝性トランスサイレチンアミロイドーシス英語版(ATTRvアミロイドーシス)と対照的であり、こちらは遺伝的変異が生じたトランスサイレチンタンパク質の蓄積を原因とし、コンフォメーションやプロセシングの異常のためにATTRwtアミロイドーシスよりも早期に蓄積が生じる傾向がある。アミロイドーシスは正常または異常なタンパク質の異常蓄積と関連した慢性進行性疾患であり、原因となるタンパク質は異常な形状をしているために細胞代謝による適切な分解と除去が行われない。

症状と徴候

野生型トランスサイレチンアミロイドは主に心臓に蓄積し、心臓壁は厚く硬くなる。その結果、息切れや運動耐容能の低下といった拡張不全英語版の症状が引き起こされる。また洞不全症候群にみられるような極端な心拍数の低下によって、疲労感やめまいが生じる場合もある。野生型トランスサイレチンの蓄積は高齢男性における手根管症候群の一般的な原因でもあり、手に痛み、しびれ、感覚障害が生じる可能性がある。一部の患者では、ATTRwtアミロイドーシスの最初の症状として手根管症候群を発症する可能性がある[2]泌尿器の病変によって、血尿のリスクも高まるようである。

自然経過

この疾患は心臓に影響が生じることが一般的であり、高齢者で有病率は高まる。この疾患は女性よりも男性にはるかに多くみられ[3]、80歳以上の男性では最大で25%にATTRwtアミロイドーシスの所見が認められる[4]

患者には左室壁の肥厚がみられることが多い。ATTRwtアミロイドーシスの診断よりも前にペースメーカーを必要とする状態となっている可能性が高く、左脚ブロックの発生率が高い。心電図でのQRS群などの低電位は、心アミロイドーシスの指標として広くみなされている[5]

ATTRwtアミロイドーシスの患者は、ALアミロイドーシス英語版とは対照的に生存予後ははるかに良好である[6]

診断

この疾患は、息切れや足のむくみなどの心不全の症状や、心拍数の低下、めまい、意識消失発作など刺激伝導系の疾患の症状を示す高齢者、特に男性の高齢者に疑われる[7]。確定診断は生検によって行われ、コンゴーレッド染色と免疫組織化学的検出が行われる。現在では、99mTcピロリン酸シンチグラフィによる非侵襲的診断が可能である[8]

治療

日本では、この疾患の治療にタファミジスが承認されている[9]徐脈の症状がみられる症例では永久ペースメーカーの植え込みが行われる場合がある。呼吸困難やうっ血の症状の治療には心不全治療薬が用いられる[10]

ジフルニサル英語版も関連疾患であるATTRvアミロイドーシスの患者に対するランダム化比較試験でベネフィットが示されており、予後を改善する可能性がある[11]トルカポン英語版は効果の可能性を示唆する予備的データが得られており、2013年にFDAによるオーファンドラッグ指定を受けている(未承認)[12]。2021年にはCRISPR-Cas9システムを利用した治療薬であるNTLA-2001のヒトでの初めての試験が行われ、トランスサイレチンの標的化ノックアウトが行われた[13]

出典

  1. ^ “Senile systemic amyloidosis: clinical features at presentation and outcome”. Journal of the American Heart Association 2 (2): e000098. (April 2013). doi:10.1161/JAHA.113.000098. PMC 3647259. PMID 23608605. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3647259/. 
  2. ^ Sekijima Y, Uchiyama S, Tojo K, Sano K, Shimizu Y, Imaeda T, Hoshii Y, Kato H, Ikeda S (November 2011). "High prevalence of wild-type transthyretin deposition in patients with idiopathic carpal tunnel syndrome: a common cause of carpal tunnel syndrome in the elderly". Human Pathology (Submitted manuscript). 42 (11): 1785–91. doi:10.1016/j.humpath.2011.03.004. hdl:10091/16883. PMID 21733562
  3. ^ Ng B, Connors LH, Davidoff R, Skinner M, Falk RH (June 2005). "Senile systemic amyloidosis presenting with heart failure: a comparison with light chain-associated amyloidosis". Archives of Internal Medicine. 165 (12): 1425–9. doi:10.1001/archinte.165.12.1425. PMID 15983293
  4. ^ Tanskanen M, Peuralinna T, Polvikoski T, Notkola IL, Sulkava R, Hardy J, Singleton A, Kiuru-Enari S, Paetau A, Tienari PJ, Myllykangas L (1 January 2008). "Senile systemic amyloidosis affects 25% of the very aged and associates with genetic variation in alpha2-macroglobulin and tau: a population-based autopsy study". Annals of Medicine. 40 (3): 232–9. doi:10.1080/07853890701842988. PMID 18382889. S2CID 23446885
  5. ^ Falk RH (September 2005). "Diagnosis and management of the cardiac amyloidoses". Circulation. 112 (13): 2047–60. doi:10.1161/CIRCULATIONAHA.104.489187. PMID 16186440
  6. ^ Rapezzi C, Merlini G, Quarta CC, Riva L, Longhi S, Leone O, Salvi F, Ciliberti P, Pastorelli F, Biagini E, Coccolo F, Cooke RM, Bacchi-Reggiani L, Sangiorgi D, Ferlini A, Cavo M, Zamagni E, Fonte ML, Palladini G, Salinaro F, Musca F, Obici L, Branzi A, Perlini S (September 2009). "Systemic cardiac amyloidoses: disease profiles and clinical courses of the 3 main types". Circulation. 120 (13): 1203–12. doi:10.1161/CIRCULATIONAHA.108.843334. PMID 19752327
  7. ^ Banypersad SM, Moon JC, Whelan C, Hawkins PN, Wechalekar AD (April 2012). "Updates in cardiac amyloidosis: a review". Journal of the American Heart Association. 1 (2): e000364. doi:10.1161/JAHA.111.000364. PMC 3487372. PMID 23130126
  8. ^ Masri, Ahmad; Bukhari, Syed; Ahmad, Shahzad; Nieves, Ricardo; Eisele, Yvonne S.; Follansbee, William; Brownell, Amy; Wong, Timothy C. et al. (2020). “Efficient 1-Hour Technetium-99 m Pyrophosphate Imaging Protocol for the Diagnosis of Transthyretin Cardiac Amyloidosis”. Circulation: Cardiovascular Imaging 13 (2): e010249. doi:10.1161/circimaging.119.010249. ISSN 1941-9651. PMC 7032611. PMID 32063053. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7032611/. 
  9. ^ Ochi, Yuri; Kubo, Toru; Baba, Yuichi; Sugiura, Kenta; Miyagawa, Kazuya; Noguchi, Tatsuya; Hirota, Takayoshi; Hamada, Tomoyuki et al. (2022-06-24). “Early Experience of Tafamidis Treatment in Japanese Patients With Wild-Type Transthyretin Cardiac Amyloidosis From the Kochi Amyloidosis Cohort”. Circulation Journal: Official Journal of the Japanese Circulation Society 86 (7): 1121–1128. doi:10.1253/circj.CJ-21-0965. ISSN 1347-4820. PMID 35599003. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35599003. 
  10. ^ Quarta CC, Kruger JL, Falk RH (September 2012). "Cardiac amyloidosis". Circulation. 126 (12): e178–82. doi:10.1161/CIRCULATIONAHA.111.069195. PMID 22988049
  11. ^ Sekijima Y (June 2014). "Recent progress in the understanding and treatment of transthyretin amyloidosis". Journal of Clinical Pharmacy and Therapeutics. 39 (3): 225–33. doi:10.1111/jcpt.12145. PMID 24749898. S2CID 20492854
  12. ^ Tolcapone”. FDA: Search Orphan Drug Designations and Approvals (2013年1月1日). 2024年6月27日閲覧。
  13. ^ Gillmore, Julian D.; Gane, Ed; Taubel, Jorg; Kao, Justin; Fontana, Marianna; Maitland, Michael L.; Seitzer, Jessica; O’Connell, Daniel et al. (2021-08-05). “CRISPR-Cas9 In Vivo Gene Editing for Transthyretin Amyloidosis” (英語). New England Journal of Medicine 385 (6): 493–502. doi:10.1056/NEJMoa2107454. ISSN 0028-4793. PMID 34215024. 

関連項目

外部リンク


老人性全身性アミロイドーシス

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アミロイドーシス」の記事における「老人性全身性アミロイドーシス」の解説

心室大量にアミロイド沈着生じて臨床的に難治性不整脈心不全をきたす病態老人性心アミロイドーシスsenile cardiac amyloidosis)とよばれ、欧米では以前から高齢者心疾患重要な原因として位置づけられていた。老人性心アミロイドーシス長年心臓限局したアミロイドーシス考えられていた。しかし1980年代に本疾患アミロイド構成蛋白TTR判明し全身性アミロイドーシス判明した。そして心臓以外にも肺、腎臓全身の小血管アミロイド分布することが明らかになった。また1990年代にはアミロイド構成蛋白変異TTRではなく野生型TTRであることが判明した従来老人性アミロイドーシス呼ばれていた病態においては心臓以外の複数全身臓器アミロイド沈着侵されること、血清中にアミロイド前駆蛋白存在することから全身性アミロイドーシス基準満たし疾患は老人性全身性アミロイドーシスと呼ぶようになった剖検例では本例は2528%以上、90歳以上で37%も認められる臨床症状には主体は心症状手根管症候群である。前者初発症状心房細動であり、ついで進行性心不全呈する心房細動起因する脳塞栓併発することがある手根管症候群両側性であり心不全出現数年先行することが多い。

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