おき‐じ【置(き)字】
置き字
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/11/05 10:21 UTC 版)
置き字(おきじ)とは、漢文を訓読する際に、特定の読み(訓)を当てられず、読む(発音する)対象とされない特定の漢字のことである[1]。 書き下し文にする際、その文字自体は表記されないが、その機能によって以下の二種類に大別される(詳細は概要節を参照)。
主に助字(助詞、助動詞、感嘆詞などに相当する機能を持つ文字)の一部が置き字として扱われる。もとの漢文(中国語)では、これらの文字も当然ながら発音され、語調を整えたり、接続・場所・対象・語気・詠嘆など、文法的な機能や微妙なニュアンスを示したりする重要な働きを担っている[2]。
概要
漢文訓読のシステムにおいて、助字の機能が日本語の活用語尾(送り仮名)や助詞(「てにをは」)によって既に表現されている(あるいは吸収される)場合や、文末の語気・詠嘆などのニュアンスが文脈や他の文末表現で補えると解釈される場合(あるいは訓読のシステム上、訳出が困難または不要と判断される場合)、その助字は特定の訓を与えられず、置き字として扱われる。
したがって、同じ文字であっても、文中での機能によって置き字として扱われる場合と、訓読される場合がある。例えば「乎」の字は、場所や対象を示す「〜に(おいて)」(「於」と類義)の意味で使われる場合は置き字となるが、文末で疑問や反語(「〜か」「〜や」)を示す場合は、そのまま「か」「や」と訓読され、置き字とはならない。
訓読における表記
漢文訓読の教材や訓読文(訓点が施された白文)において、置き字は原則として返り点や送り仮名を付けずに読み飛ばす対象として示される。
機能が送り仮名や助詞に反映されるもの
- 而 (順接「して」、逆接「ども」など)
- 例:「学而時習之」(『論語』学而第一)
- 書き下し文:「学びて時に之を習ふ」(まなびてときにこれをならふ)
- 解説:「而」は読まれないが、その順接の機能が「学ぶ」の活用語尾(送り仮名)「て」として反映されている。
- 於、于、乎 (場所「に」、対象「を」、起点「より」など)
- 例:「己所不欲、勿施於人」(『論語』衛霊公第十五)
- 書き下し文:「己の欲せざる所、人に施すこと勿(なか)れ」(おのれのほっせざるところ、ひとにほどこすことなかれ)
- 解説:「於」は読まれないが、その機能が助詞「に」として反映されている。
- (補足:「乎」は、文末で疑問・反語(「〜か」「〜や」)を示す助詞として用いられる場合は置き字とせず訓読する。)
これらは、日本語の助詞(格助詞、接続助詞など)に相当する機能を持つ助字であり、訓読ではその機能を対応する助詞や活用語尾(送り仮名)として処理する。
機能が訓読に反映されない(読み飛ばされる)もの
主に文末に置かれ、断定、完了、詠嘆、あるいは語調を整えるなどの語気やニュアンスを示す助字がこれにあたる。日本語の訓読では、これらの文字が持つ微妙なニュアンスは、文脈全体や、文末の他の表現(例えば断定の「なり」や詠嘆の「かな」といった終助詞や助動詞の補い)によって表現可能である、あるいは訓読のシステム上、訳出が困難または不要と判断されるため、特定の訓を当てられずに置き字として扱われることが多い。
- 矣 (断定、完了)
- 焉 (断定、強調。文末の置き字として扱われる以外に、「いづくんぞ」(疑問・反語)や「これに」(対象)などと訓読される場合もある)
- 也 (断定、判断。文末で「なり」と読まれる場合もあるが、置き字として扱われることも多い)
- 兮 (詠嘆、語調を整える)
出典
- ^ NHK高校講座 国語総合18回
- ^ 『漢文必携[四訂版]』桐原書店 菊池隆夫・村山敬三・六谷明美 2013年 p18
関連項目
- 漢文教育
- 助字
置き字
「置き字」の例文・使い方・用例・文例
置き字と同じ種類の言葉
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