細胞器官化に関して
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/28 14:06 UTC 版)
本種の色素体が細胞内共生者であるのか細胞器官であるのかについては長く議論の対象であったが、現在では共生者から細胞器官化しつつある存在、との判断である。 一般的に見られる細胞小器官化した元共生微生物(葉緑体、ミトコンドリア)に見られる特徴の1つに、共生体の遺伝子が宿主細胞の核に大きく移動するというものがある。その点では緑色植物の葉緑体も、元のシアノバクテリアの特徴をよく残しているように見られる灰色藻類のシアネルも大差はなく、その所有するDNAの量は一般的なシアノバクテリアの10%満たないことが分かっている。本種の場合、光合成に関するものを含むシアノバクテリアの生活上重要な遺伝子が複数すでに無くなっていることが認められているが、通常の葉緑体を持つ生物では核に移動して葉緑体状に見られないpsbOという光合成に関わる遺伝子や原核生物にのみ見られるnifBという窒素固定に関わる遺伝子が存在することが確認され、自由生活のシアノバクテリアの特徴を強く残しているととれる。総量で見ると、自由生活のシアノバクテリアで、本種の色素体に近縁とされるSynechococcus 属や Prochococcus 属のゲノムが約 3 Mbpであるのに対して、本種の色素体のそれは 1.02 Mbpであり、つまり約2/3の遺伝子が失われたか宿主細胞の核へ移動したことになる。それでも葉緑体のそれは 100 kbpから 200 kbp程度であり、本種色素体のそれは格段に大きく、本種の色素胞は細胞器官への変化において『道半ば(work in progress)』と言える。 井上 (2007) は本種の色素体に関しての記述の中で、本種の色素体が充分に役立つものであったなら、一気に適応放散をして新たな植物群になった可能性を述べ、そうならなかったこと、あるいは現在の本種が培養困難で普通の藻類のように増えないことから、色素体が適応的に機能していないのではないか、それはまた色素体の共生が遅かったために、まだ充分に確立していないのかも知れない、などと述べている。 植物の葉緑体が細胞器官化したのは10億年前と推定されており、その過程を研究するのは容易でないのに対して、本種の色素体が共生を始めたのは6000万年前と遙かに最近のことなので、その点でも細胞器官化の研究対象として重要である。
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