稲田石
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/04/29 10:14 UTC 版)
稲田石(いなだいし)は、茨城県笠間市稲田地区を中心として採掘される石材(花崗岩)。銘石としては稲田みかげ石(いなだみかげいし)や稲田御影(いなだみかげ)という名称が用いられ、「白い貴婦人」という通称もある[1][2]。
日本最大級の採掘量を持つ石材である[3]。明治維新後の近代化によって石材の需要が高まると、稲田石や真壁石を中心とする筑波山塊の花崗岩は鉄道によって東京などに運ばれ、多くの洋風建築などに用いられた[4]。地質学者の西本昌司は、茨城県の稲田石と岡山県の北木石を「日本の近代化を支えた花崗岩の東西の横綱」としている[5]。
歴史
近代の産業化

約6000万年前に地下深くでマグマが固まって形成された花崗岩の一種である[1]。江戸時代から稲田では石材が採石されていたが[1]、稲田石よりも真壁石のほうが古くから採石されて用いられていた[3]。
1889年(明治22年)、鍋島彦七郎によって本格的な採石が開始された。同年の水戸鉄道(現・JR水戸線)開業時には稲田に駅は設けられなかったものの、鍋島が土地を買収して水戸鉄道に無償提供したことで、1897年(明治30年)に貨物駅としての稲田駅が開業し、鉄道が稲田石の輸送に用いられた[4]。明治30年代には東京市電の軌道用敷石(市電石)にも用いられた[6]。
現代の動向
2005年(平成17年)のいばらきストーンフェスティバルの際、グラフィックデザイナーと石匠がコラボした作品を展示する第1回いなだストーンエキシビジョンが開催された。2014年(平成26年)3月30日、JR水戸線稲田駅前に石の百年館が開館した。2024年(令和6年)7月6日、稲田石や真壁石を含む「筑波山塊の花崗岩」が国際地質科学連合によって世界のヘリテージストーン(天然石材遺産)に認定された[7]。
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石の百年館
特徴
石英、カリ長石、斜長石、黒雲母を主成分鉱物とする深成岩である[8]。均一的な柄、明るい色調が特徴であり[3]、日本国内の御影石の中では最も純白に近いとされる[8]。
墓石、建築材、土木用材など様々な分野で用いられている[1]。長尺物の石材が採れることで、神社の鳥居に用いられることも多い[9]。「石切山脈」と通称される石切場(丁場)跡は湖(丁場湖)となっており、「地図にない湖」と紹介されている[2]。
東西約20キロメートル、南北約10キロメートルに渡って分布している[3]。隣接する桜川市羽黒地区(羽黒青糠目石)や真壁地区(真壁石)とともに石材産地を形成している[3]。真壁(茨城県)、庵治(香川県)、岡崎(愛知県)は「日本三大石材産地」と称され、真壁に稲田石を含める場合もある。
- 圧縮強度 - 167.48 N/m㎡
- 比重 - 2.63 g/cm3
- 吸水率 - 0.22 %
使用された建築物
東京都
- 日本銀行本店[3] - 東京都中央区。1896年(明治29年)竣工。
- 旧三菱銀行本店 - 1922年(大正11年)竣工。1977年(昭和52年)解体。東京都千代田区。
- 三井本館 - 東京都中央区。1929年(昭和4年)竣工。外壁に用いられている[4]。
- 国立科学博物館日本館 - 東京都台東区。1931年(昭和6年)竣工。外壁に用いられている[4]。
- 国会議事堂[1][3] - 東京都千代田区。1936年(昭和11年)竣工。
- 第一生命館 - 東京都千代田区。1938年(昭和13年)竣工。外壁に用いられている[4]。
- 最高裁判所[1][3][10] - 東京都千代田区。1974年(昭和49年)竣工。
- 三菱UFJ銀行本店[9] - 1980年(昭和55年)竣工。東京都千代田区。
- 東京証券取引所 - 東京都中央区。1988年(昭和63年)竣工。外壁に用いられている[4]。
- 東京駅丸の内駅前広場 - 東京都中央区。幅約20メートル、長さ約85メートルの広場の石畳[11]。2017年(平成29年)オープン。
- 東京駅[1][3] - 1914年(大正3年)竣工。鉄骨煉瓦造の煉瓦建築として知られているが、1階の腰壁と玄関周りには北木石が用いられており、窓回りや柱頭飾りなどには稲田石が用いられている[12]。東京都千代田区。
- 迎賓館赤坂離宮[3] - 東京都港区。
- 両国国技館[3] - 東京都墨田区。
- 昭和天皇陵[3] - 東京都八王子市。
- 忠犬ハチ公像台座[4] - 東京都渋谷区。
- えびす像台座[4] - JR恵比寿駅西口。東京都渋谷区。
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日本銀行本店
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旧三菱銀行本店
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三井本館
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国立科学博物館日本館
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国会議事堂
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第一生命館
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最高裁判所
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三菱UFJ銀行本店
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東京駅丸の内駅前広場(手前)
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迎賓館赤坂離宮
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ハチ公像台座
茨城県
- 茨城県三の丸庁舎[1] - 茨城県水戸市。かつての本庁舎。1930年(昭和5年)竣工。
- 石の百年館 - 茨城県笠間市。2014年(平成26年)竣工。
- 笠間稲荷神社門前通りの石畳[1] - 茨城県笠間市。
- つくばセンター広場[4] - 茨城県つくば市。
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茨城県三の丸庁舎
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石の百年館
その他の地域
- 七十七銀行本店[9] - 宮城県仙台市。1977年(昭和52年)竣工。
- 原爆死没者慰霊碑[3] - 広島県広島市。初代はコンクリート製だったが、劣化が進んだことで稲田石の2代目に置き換えられた。1985年(昭和60年)竣工。
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七十七銀行本店
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原爆死没者慰霊碑
脚注
- ^ a b c d e f g h i 稲田石 笠間市
- ^ a b 「歴史的名建築を支える『白い貴婦人』茨城・笠間市『石切山脈』」『産経新聞』2024年9月2日
- ^ a b c d e f g h i j k l m 稲田石 日本石材センター
- ^ a b c d e f g h i 西本昌司 多くの人が知らない…じつは、東京駅前の白い石は「6000万年前のマグマ」だった 現代ビジネス、2025年3月4日
- ^ 西本昌司『街の中で見つかる「すごい石」』日本実業出版社、2017年、p.23
- ^ 『石材の事典 新装版』朝倉書店、2021年、pp.223-224
- ^ 「筑波山塊の花崗岩」が世界のヘリテージストーン(天然石材遺産)に認定されました つくば市
- ^ a b 「稲田石」『日本大百科全書』小学館
- ^ a b c 全国建築石材工業会 監修『原色 石材大事典』誠文堂新光社、2016年、pp.60-61
- ^ 第30回 ふたつの最高裁判所庁舎 鹿島建設
- ^ 「我がまちの誇り『稲田石』」『広報かさま』笠間市、2018年1月号
- ^ 西本昌司『街の中で見つかる「すごい石」』日本実業出版社、2017年、pp.28-30
参考文献
- 全国建築石材工業会 監修『原色 石材大事典』誠文堂新光社、2016年
- 『石材の事典 新装版』朝倉書店、2021年
外部リンク
稲田石と同じ種類の言葉
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