私小説からの逸脱
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/15 07:52 UTC 版)
牧野信一の文学は、初期私小説、中期幻想小説、後期私小説への復帰、と通常大まかに分類されている。 堀切直人は、牧野の初期の出世作である『父を売る子』をはじめとした私小説では、「自分の家庭の内幕を大胆にさらけ出した、すこぶる露悪的自虐的な」作品が特徴で、晩年には『鬼涙村』、『裸虫抄』などの佳作で「暗鬱な土俗の世界に肉薄」し、牧野は基本的には「自然主義的な作風」の作家とみなされることが多いと考察している。柳沢孝子も、牧野の初期作品は、「自虐的饒舌および劇画」や「鋭敏な末梢神経描写」にあふれた私小説の体裁を持ち、晩年の作品も「朗らかな夢」が涸れていると解説している。 しかし、文壇の通称として「ギリシャ牧野」と呼ばれていた中期(1927年から1932年)の浪漫的幻想小説は、そうした初期や晩年の私小説とは変り、「濃厚なナンセンスによる笑いの文学」、「夢魔的世界」を実現させており、中期の傑作といわれる、この『ゼーロン』を筆頭とする、その時期の作品は自然主義的私小説とは趣の異なる「幻想的」な作品群と目され、「古代ギリシャや中世ヨーロッパの古典」に題材を借りた作風となっている。
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