磯焼けとの関係
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/15 16:11 UTC 版)
健全なムラサキウニは非常に発達した生殖腺を持ち、食用になるので水産資源として扱われるが、「磯焼け」の海底にいるムラサキウニは飢餓状態であり、成長不良のために中身が少なく食用にならない。そのため、単に海藻を食害して磯焼けを引き起こすだけの有害生物として、駆除の対象になっている。 海底の海藻が死滅する「磯焼け」の状態になると、それまで生えていた褐藻類に代わってサンゴモ類が優占し、同時にムラサキウニが大発生した状態になる。そのため、ムラサキウニが海藻を食べ尽くしてしまったことが、磯焼けの原因の一つとひとつとされているが、磯焼けは海底が高温貧栄養状態に置かれたことによって褐藻類を主とする海藻の成長が阻害され、捕食者と被食者のバランスが崩れた結果、褐藻類がムラサキウニに食べ尽くされてしまったことによる。したがって、ムラサキウニが全部悪いわけではない。しかし、ムラサキウニが磯焼けの海底にせっかく生えてきた海草を生えるそばから食べてしまうため、ムラサキウニの摂食圧によって磯焼けが持続する結果になっているのは事実である。 健全な環境においては、サンゴモ類は褐藻類に覆い隠されながら生活し、また褐藻類はムラサキウニの生育を阻害するポリフェノールを分泌することからムラサキウニもあまり増えず、結果として生態系のバランスが取れている。磯焼けの状態では褐藻類が衰退し、サンゴモ類のみが優占する状態になる。サンゴモ類はムラサキウニの成長を促すジブロモメタンを分泌するため、ひとたび磯焼けが起こった場合、ムラサキウニが大発生することになる。また、サンゴモ類はムラサキウニの摂食を阻害する物質も出すため、サンゴモ類はあまりムラサキウニに食べられず、逆に邪魔な褐藻類の芽生えをムラサキウニが食べてくれるため、サンゴモ類が優占する状態が持続することになる。磯焼けは、サンゴモ類以外は何も生えない「海の砂漠」と呼ばれる状態であるが、サンゴモ類にとってはむしろ天国である。 磯焼けは、ムラサキウニなどの捕食者を排除し、ウニが入ってこないように網で囲いをし、海藻の苗を植える藻場の造成を行うことによって回復できるが、囲いを行った部分以外は磯焼けのままであり、またこれを行うと従来は水産資源となっていたムラサキウニが取れなくなるため、磯焼け以前の状態に完全に戻るわけではない。一方で、海底の環境が回復すると、一面のサンゴモの砂漠でも速やかに様々な生物が共存する海中林に戻る。磯焼けのメカニズム自体がまだはっきりと解明されたわけではないが、磯焼けを食い止めて、海藻とムラサキウニが共存する豊かな環境を回復するための取り組みが各地で行われている。 なお、磯焼けの原因としては、海流の変化や地球温暖化などの自然的要因、ダムの放水などの人為的要因のほかに、ウニを食べるラッコの減少があり、ラッコが減少したためにムラサキウニが増えすぎて磯焼けが発生した事例がある。ラッコは普段は水産資源であるムラサキウニを食べる害獣として扱われるが、ラッコがウニを食べることによって海藻やウニなどの豊かな水産資源を生み出す環境が逆に守られているなど、自然は複雑なバランスの上で成り立っている。
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