省略三段論法の各部
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/09/17 04:03 UTC 版)
例えば「ソクラテスは人間なので死を免れない。」という一文は三段論法として以下のように分析できる。 全ての人間は死を免れない。(大前提) ソクラテスは人間である。(小前提) ゆえに、ソクラテスは死を免れない。(結論) しかしここでは、小前提と結論のみが述べられ、大前提は推定されるもの、つまり暗黙の前提として省略されている。 次に「指紋が一致しないのだから、被告は無罪となるべきだ。」という一文を考える。 指紋が一致するならば被告は有罪となるべき。(大前提) 指紋は被告のものではない。(小前提) ゆえに、被告は無罪となるべきである。(結論) ここでも大前提は述べられず、小前提と結論のみが述べられているが、これは論述(論証)として不完全である。なぜなら、必ずしも指紋のみが犯人を指し示す証拠とは言えず、語られていない大前提に疑念点が生じうるからである。しかし、語られていないがゆえに、その前提の妥当性をチェックするプロセスが薄れる。 また、独立した命題でなくとも前提が含意され省略されているものもある。修辞学者の佐藤信夫は大岡昇平の『武蔵野夫人』を例に説明する(下線は佐藤による引用のまま)。 おはまはあらゆる母親と同じく息子の異性に対する心の動きに敏感であった。これは彼女の妻としての生活が、さういふ動きを抑へることにある結果である。 — 大岡昇平『武蔵野夫人』 この「あらゆる母親と同じく」には、“あらゆる母親は、息子の異性に対する心の動きに敏感である”という大前提が潜んでいる。また、小前提“おはまは母親である”も、独立した命題として与えられているわけではなく、ストーリーから理解されると同時に、「あらゆる母親と同じく」に含意されてもいる。そして大前提に相当する部分を除いた「おはまは(略)息子の異性に対する心の動きに敏感であった」が結論にあたる。 — 佐藤信夫『レトリック事典』「4-1-1-2:暗示推論法」 指紋の例のように、省略された前提は、推論の中の疑わしいあるいは誤謬的な前提を曖昧にする効果的な方法でもある。一般的に、前提の誤謬(間違った前提に基づく誤謬。たとえば人身攻撃や「悪には悪(two wrongs make a right)」)は省略三段論法を招く。
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