死者と生者
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/12/27 20:04 UTC 版)
死は死んだ者だけに悲惨をもたらすのではない。死者に先立たれ、取り残された生者には孤独が残される。生者が身近な者の死の精算に失敗すると大きな後悔が残され、大変な苦痛にさいなまれることになる。死生学は死を個人一人の問題としてではなく、個人と個人の関係性において共有される重大な問題として捉える。たとえば自殺者は自らの悲嘆に囚われるあまり、自殺したあとに残される遺族の心の負担を省みることに乏しい傾向にある。死生学は自殺願望をもつ者の孤独感や絶望感、身近に自殺者が出てしまった人のショックや悲しみに対するケアの方法を研究するとともに、それを踏まえて死生観教育を確立し、自殺予防につなげていくことを提唱している。 また親しい人物が死者となった場合、親密な交友関係や結婚以前の恋愛関係など法的裏付けに乏しい関係は断ち切られる傾向にあり、それが血縁者でない広義の遺族の心の負担につながることが多い。葬式での喪主などは法的関係に基づいて行われるのが一般的なので、場合によっては、法的裏付けのない遺族は死者に対する悲しみを十分に満たされることがない。したがって生きているうちに大切な友人や恋人との関係をある程度公的に認知させておくことは有意義であると死生学は提唱している。 われわれはとかく死の予測不可能性をもって死の非日常性のよりどころとし、それが誰にとっても必然として訪れるということを忘却しがちである。死は自分に訪れるだけでなく身近な人にも当たり前に訪れるもので、しかも身近な人の死は深刻な苦悩を個人にもたらす。死生学は死の必然性に立脚し、このような必然的事実としての死を乗り越えるための学問である。
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