寝肥とは? わかりやすく解説

寝肥

作者京極夏彦

収載図書前巷説百物語
出版社角川書店
刊行年月2007.4


寝肥

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/12/16 22:03 UTC 版)

竹原春泉画『絵本百物語』より「寝肥」

寝肥寝惚堕(ねぶとり)は、江戸時代の奇談集『絵本百物語』にある日本妖怪の一種。妖怪というよりは一種の病であったり、戒めであると言った方が妥当。本来の「寝肥」とは、寝てばかりいて太ることを示す言葉だが[1]、本項ではこの『絵本百物語』にあるものについて述べる。

概要

『絵本百物語』の挿絵中にある文章によれば、夜に女性が寝床につくと部屋に入りきらなくなるほどの巨体となり、車の轟くほど大きないびきをかいて寝るものを、寝肥というとある[2]

また、『絵本百物語』の本文によれば、寝肥は女性の病気の一つであり、寝坊を戒めた言葉ともされる。奥州(現・青森県岩手県[3])で寝肥となった女性が、家に布団が10枚あるところを、その女性は7枚、夫は3枚使って寝ていたという。こうした寝肥は色気もなく、何かにつけて騒々しいので、しまいには愛想が尽きてしまうのだという。これらの地方では、寝相の悪い女を指して「ねぶとり」と呼ぶともいう[2]

「ねぶとり」という名での妖怪については他の古典作品や民間伝承の資料にも一般的に確認されていないため、これ以上のことは不明であり[4]、結婚しても家で怠けて寝てばかりの女を戒めるために創作された妖怪との説もある[3][5]。また、病気などで人間が妖怪と化すという意味において、二口女ろくろ首と同様のものとする見方もある[6]

『視聴草[7]』『兎園小説拾遺[8]』などの江戸時代の書物には、老女の体にタヌキが入り込み、途端に老女が元気になって大量の食物を平らげるようになったという奇談があることから(狸憑き#怪奇譚を参照)、寝肥もまた、眠っている女性の体にタヌキが忍び込んで悪さをしているのではないかという解説が昭和以降の妖怪に関する文献ではされることもある[5]。江戸時代に描かれた岡田玉山による読本『画本玉藻譚』には、那須野が原で玉藻前キツネ)が僧侶たちを化かすために使った術のうちに家の中で女がどんどん巨大化するというものが登場しており、その挿絵も「ねぶとり」として紹介されることもある[9]

妖怪研究家・多田克己は、「寝肥」が病名とされていることから、この名称は細菌感染症である(よう)の一種「寝太(ねぶと)」との語呂合わせともいい、寝太が高齢者、糖尿病、高カロリー、運動不足の人が患いやすいことを寝肥の名が暗示しており[10]、また、舞台とされている奥州で行われてる祭りである「ねぶた」の山車燈籠に膨れ上がった肉体を持つ人物が描かれていることから、「寝肥」は「ねぶた」との語呂合わせではないかとの解釈も示している[10]

落語

上方落語には「お玉牛」という演題に寝肥が登場する。お玉という美女に男が夜這いをかけるが、布団の中の思いがけない巨体に驚き「お玉ちゃん、寝肥かい?」というものである。これはお玉の父が愛娘を守るため、布団の中に牛を寝かせていたというオチである[3]。これは、本来の言葉の使い方によるものであると考えられる。

寝肥にちなんだ作品

小説
漫画
  • 地獄先生ぬ〜べ〜 - 醜さゆえに誰からも相手にされず、死後、美しい女性に取りついて太ったように見せかけて苦悩させる悪霊とされている。
  • 妖怪の飼育員さん - 第3巻収録の36話「寝肥」に登場する。寝肥そのものは妖怪として存在せず、女性に憑りついた餓鬼のためとされた。

脚注

[脚注の使い方]
  1. ^ 北原保雄他 編 『日本国語大辞典』 第10巻、小学館、1974年、710頁。ISBN 978-4-09-522010-9 
  2. ^ a b 多田 1997, p. 31
  3. ^ a b c 人文社 2005, p. 8
  4. ^ 村上健司編著 『日本妖怪大事典』〈Kwai books〉角川書店、2005年、252頁。 ISBN 978-4-04-883926-6 
  5. ^ a b 水木 1994, p. 346
  6. ^ 中村生雄他 著、小松和彦香月洋一郎 編 『身体と心性の民俗』〈講座日本の民俗学〉雄山閣、1998年、123-124頁。 ISBN 978-4-639-01504-8 
  7. ^ 氏家幹人 『江戸の怪奇譚』講談社、2005年、163-167頁。 ISBN 978-4-06-269260-1 
  8. ^ 曲亭馬琴他 著「兎園小説拾遺」、柴田宵曲 編 『奇談異聞辞典』〈ちくま学芸文庫筑摩書房、2008年、395-397頁。 ISBN 978-4-480-09162-8 
  9. ^ 粕三平編著 『おばけ図絵』芳賀書店、1973年、187頁。 
  10. ^ a b 多田 1997, pp. 129–130

参考文献

関連項目


寝肥

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/13 18:01 UTC 版)

奇異太郎少年の妖怪絵日記」の記事における「寝肥」の解説

すず取り付きぶくぶく太ったところを奇異太郎見られ二人逆鱗に触れる

※この「寝肥」の解説は、「奇異太郎少年の妖怪絵日記」の解説の一部です。
「寝肥」を含む「奇異太郎少年の妖怪絵日記」の記事については、「奇異太郎少年の妖怪絵日記」の概要を参照ください。

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