定点理論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/10 14:11 UTC 版)
今、従系(動吸振器)の減衰特性を変化させていくことにより、主系の変位倍率がそれに連れてどのように変化するかに注目する。主系と従系の質量比μ、主系と従系の単体固有角振動数比αを固定し、従系の減衰比ζaを変化させて変位倍率Xm/xstの変化を見ると、ある2つの主系単体固有角振動数と加振力振動数の比βの値で、ζaに無関係にXm/xstの値が定まる2つの点(P、Q)がある。これらの点を定点(fixed point)と呼ぶ。βの代わりにΩ/ωaの値で変化を見たときも同様である。 減衰の無い動吸振器では、加振力の振動数と動吸振器の単体固有角振動数が一致または狭い範囲で近くないと効果を発揮できないので、減衰を付与することで幅広い範囲で振動(振幅倍率)を抑えるようにしたい。上記の定点が存在する性質を利用して動吸振器特性の最適化を図るのが、動吸振器の定点理論である。定点理論は、1932年のエーリッヒ・ハンカム (Erich Hahnkamm)の研究に始まり、1946年にJ・E・ブロック(J. E. Brock)によってほぼ完成された。振幅倍率の共振曲線が全体的に低く抑えられるような曲線になればよいので、次の2つの条件を満たせば、そのような曲線が得られることが予想される。 共振曲線で、2つの定点が同じ値を取る。 共振曲線で、2つの定点が極大値を取る。 後者の操作は定点を共振点と一致させることと同義でもある。具体的には、主系と従系の質量比μより以下のような最適値が求まる。 α o p t = 1 1 + μ {\displaystyle \alpha _{opt}={\frac {1}{1+\mu }}} (条件1より) ζ a o p t = 3 μ 8 ( 1 + μ ) {\displaystyle \zeta _{a\ opt}={\sqrt {\frac {3\mu }{8(1+\mu )}}}} (条件2より) 以上のような、最適な主系・従系質量比αoptを求めることを最適同調、最適な従系減衰比ζa optを求めることを最適減衰とよぶ。最適同調の式はエーリッヒ・ハンカムにより導出され、最適減衰の式はブロックにより導出された。 上記の最適減衰の式は厳密解ではなく、平均に基づく近似値である。ただしμ ≪ 1と見なせる限り、実用上は特に問題ない。誤差が生じる原因は、P点の最適減衰によると、右側の共振点がQ点からわずかにずれ、同様に、Q点の最適減衰では、左側の共振点がP点からずれるためで、定点理論はP点、Q点での最適減衰を平均化して結果としている。西原らの厳密解との比較によると、μ = 0.1のとき相対差0.023%、μ = 1のとき相対差0.5%、μ = 10のとき相対差2.3%である。西原らによる最適減衰の厳密解を以下に示す。 z o p t = α o p t 2 ( 1 − r o p t ) [ r o p t − ( 1 + μ ) α o p t 2 ] 2 r o p t [ ( 1 + μ ) 2 α o p t 2 − r o p t ] {\displaystyle z_{opt}={\sqrt {\frac {\alpha _{opt}^{2}(1-r_{opt})\left[r_{opt}-(1+\mu )\alpha _{opt}^{2}\right]}{2r_{opt}\left[(1+\mu )^{2}\alpha _{opt}^{2}-r_{opt}\right]}}}} α o p t = r o p t ( 1 + 4 + 3 μ ) 3 ( 1 + μ ) 2 {\displaystyle \alpha _{opt}={\sqrt {\frac {r_{opt}(1+{\sqrt {4+3\mu }})}{3(1+\mu )^{2}}}}} ここで、 z = c a 2 μ m m k m = α ζ a {\displaystyle z={\frac {c_{a}}{2\mu {\sqrt {m_{m}k_{m}}}}}=\alpha \zeta _{a}} r o p t = 8 [ ( 4 + 3 μ ) 3 / 2 − μ ] 64 + 80 μ + 27 μ 2 {\displaystyle r_{opt}={\frac {8\left[(4+3\mu )^{3/2}-\mu \right]}{64+80\mu +27\mu ^{2}}}}
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