外国交際
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/11/19 01:33 UTC 版)
一六 節義廉恥(れんち)を失ひて、国を維持するの道決して有らず、西洋各国同然なり。上に立つ者下に臨(のぞ)みて利を争ひ義を忘るる時は、下皆之れに倣(なら)ひ、人心忽(たちま)ち財利に趨(はし)り、卑吝(ひりん)の情日日長じ、節義廉恥の志操(しそう)を失ひ、父子兄弟の間も銭財を争ひ、相ひ讐視(しゆうし)するに至る也。此(かく)の如く成り行かば、何を以て国家を維持す可きぞ。徳川氏は将士の猛き心を殺(そ)ぎて世を治めしかども、今は昔時戦国の猛士(もうし)より猶一層猛(たけ)き心を振ひ起さずば、万国対峙(たいじ)は成る間敷也。普仏の戦、仏国三十万の兵三ヶ月の糧食(りようしよく)有て降伏せしは、余り算盤(そろばん)に精(くわ)しき故なりとて笑はれき。 一七 正道を踏み国を以て斃(たお)るるの精神無くば、外国交際は全(まつた)かる可からず。彼の強大に畏縮し、円滑を主として、曲げて彼の意に順従する時は、軽侮を招き、好親却(かえつ)て破れ、終に彼の制を受るに至らん。 一八 談国事に及びし時、慨然(がいぜん)として申されけるは、国の陵辱(りようじよく)せらるるに当りては縦令(たとい)国を以て斃(たお)るるとも、正道を践(ふ)み、義を尽すは政府の本務也。然るに平日金穀(きんこく)理財の事を議するを聞けば、如何なる英雄豪傑かと見ゆれども、血の出る事に臨めば、頭を一処に集め、唯目前の苟安(こうあん)を謀(はか)るのみ、戦の一字を恐れ、政府の本務を墜(おと)しなば、商法支配所と申すものにて更に政府には非ざる也。
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