分解が一意とならない例
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/10/17 07:12 UTC 版)
「一意分解環」の記事における「分解が一意とならない例」の解説
a, b を整数として a + b − 5 {\displaystyle a+b{\sqrt {-5}}} の形に書ける複素数全体の成す二次の整数環(英語版) Z [ − 5 ] {\displaystyle \mathbb {Z} [{\sqrt {-5}}]} で 6 は 6 = 2 ⋅ 3 = ( 1 + − 5 ) ( 1 − − 5 ) {\displaystyle 6=2\cdot 3=(1+{\sqrt {-5}})(1-{\sqrt {-5}})} のふた通りに分解される。この環における単元は 1, −1 のみであり、2, 3 および 1 ± − 5 {\displaystyle 1\pm {\sqrt {-5}}} は同伴ではないので、このふた通りの分解は実際に異なる分解である。これらの4つの因子がいずれも既約元となることは、それほど明らかではないとしても、それを示すことは難しくない。代数的整数も参照。 多項式環の剰余環は殆どが UFD にならない。例えば R を可換環とするとき、R[X, Y, Z, W]/(XY − ZW) は UFD ではない。二段階に分けてそれを示そう。まず、X, Y, Z, W は何れも既約元であることを示す。多項式の次数を使って R[X, Y, Z, W]/(XY − ZW) を次数環と見なすとき、X は 1-次であるから、X がふたつの零元でも単元でもない元の積に書けるとすれば、そのふたつの因子は 1-次の元 αX + βY + γZ + δW と 0-次の元 r でなければならない。このとき X = rαX + rβY + rγZ + rδW であるから R[X, Y, Z, W] において 1-次の元 (rα − 1)X + rβY + rγZ + rδW がイデアル (XY − ZW) に属さなければならないが、このイデアルの零でない元は 2 より大きな次数を持たねばならないので、必然的に (rα − 1)X + rβY + rγZ + rδW は R[X, Y, Z, W] における零元でなければならない。これより rα = 1 が従うから、r は単元であることになり矛盾を生じる。ゆえに X は既約であり、同様に Y, Z, W の既約性も示される。 次に、剰余環において関係式 XY − ZW = 0 が成立するから、XY と ZW は同じ元を表している。先に述べたこととあわせれば、これはつまり XY = ZW が同じ元の相異なるふたつの既約元分解を与えることを意味するから、R[X, Y, Z, W]/(XY − ZW) は UFD ではない。 一変数正則函数環は、無限個の零点を持つ正則函数が存在して、そのような函数はたとえば sin π z = π z ∏ n = 1 ∞ ( 1 − z 2 n 2 ) {\displaystyle \sin \pi z=\pi z\prod _{n=1}^{\infty }\left(1-{{z^{2}} \over {n^{2}}}\right)} のように無限個の既約因子を持つため、UFD とはならない。UFD においては有限個の因子に分解されなければならない。 一般に、ネーター整域は必ずしも UFD ではない。任意のネーター整域において、零元でも単元でも無い元は必ず既約元の積として書けるけれども、この積としての表示が一意である必要は無い。
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