住居侵入罪の成立を否定
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/26 17:19 UTC 版)
「葛飾政党ビラ配布事件」の記事における「住居侵入罪の成立を否定」の解説
最後に、裁判所は、被告人の立入り行為が住居侵入罪にいう「正当な理由がない」場合に該当するか否かについて検討し、「正当な理由がないとはいえない」と判断した。 まず裁判所は、以下のような判断の枠組みを示した。 「本件のように立ち入りの目的自体は決して不法なものではない場合、どのようなときであれば立ち入りを許されるかは、共同住宅の形態、立ち入りの目的・態様等に照らし、その時の社会通念を基準として、法秩序全体の見地からみて社会通念上容認されざる行為といえるのか否かによって判断するほかはない。」 そして、被告人の行為について、以下のように認定した。 集合郵便受けがあるにもかかわらずドアポストへ投函した目的は、確実にビラを読んでもらうこと 配布したビラの内容は犯罪を助長又は風紀を乱すものではなく、それを受け取っても住居の平穏・プライバシーを侵害されるとの危惧は抱かない 被告人の立ち入った時間帯は他の居住者や関係者の出入りも想定される昼間の時間帯であり、人目を避けようともしていなかった 滞在時間はせいぜい7・8分であり、全て配り終えたとしてもさらに2・3分を要する程度 これら認定された事実を前提に、「正当な理由」の有無を判断している。そこでは、近年、プライバシー・防犯意識が高まり、目的如何を問わず集合住宅の共用部分への立ち入りが控えられるべきであるとの考えが強まってはいるものの、一般化・規範化している(社会通念になっている)とまでは言えないことから、被告人の行為にも「正当な理由がないとは言えない」として、住居侵入罪の成立を否定した(無罪とした)。 上記「社会通念」の内容確定と、被告人の行為が社会通念上容認されるとした判断の根拠は、以下である。 集合郵便受けの設置を義務付ける郵便法の昭和36年改正の趣旨は、プライバシーの保護ではなく、郵便配達人の配達の便宜を図るという点にあったのであり、集合郵便受けの設置は、法規上はドアポストまでの接近を禁ずる根拠とはいえない。 かつては政治ビラ・商業ビラのドアポストへの配布をそれほど問題視していなかった風潮があり、本件以前にビラ投函目的で集合住宅の共用部分に立ち入る行為が刑事事件として立件されたなどという報道は、ピンクビラの事案を除外するとほとんどない。 現に問題となったマンションでもピザの宅配業者による商業ビラが配布されており、そうした業者が逮捕されたという報道も耳にしない ただし、全くの部外者が集合住宅の共用部分に立ち入ることそれ自体を不安・不快に感じる居住者は相当数いると考えられ、そうした居住者の心情も尊重されるべきであるから、ビラ投函目的での平穏な態様での立ち入りが社会通念上容認されると直ちに断定するには躊躇があると述べ、さらに、居住者に目的を明らかにして不安払拭に務めたという被告人の言い分については、「マンションの居住者の心情への配慮をやや欠いており、独りよがりな面がないとはいえない」としている。
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