人物呼称
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2017/03/25 16:36 UTC 版)
「甲南女子大学本源氏物語」の記事における「人物呼称」の解説
源氏物語において近年最も精緻な考察が行われつつある分野のひとつに、人物呼称研究がある。「それぞれの登場人物が、作品内でどのように呼ばれているのか、さらにはどのような場合にどのように呼び分けられているのか」に焦点をあてるアプローチである。 とりわけ紫の上は、光源氏が最も愛した女性であり、もともと身分的には光源氏の正妻となるのに何ら問題のない宮家の血筋であるにもかかわらず、光源氏が当時の貴族が結婚するときにとった一般的な手続きを全く取ることなくほぼ「略奪」といってよい強引なやり方で自宅に連れ帰って自分のものにしてしまったという「妻」となった経緯から、制度的・法的には「正妻」とは言い難い、特殊で微妙な立場にある。このため、源氏物語ではそれぞれの場面に応じて「対の上」、「紫の上」、「春の上」、「南の上」などさまざまな表現が使われている。こうした事情を前提として、「源氏物語の中での紫の上というものの存在」について考察が加えられることがしばしばある。 なかでも嫡妻を意味する「北の方」という表現は、ほとんどの本で登場人物の会話の中に見られるのみであり、地の文に現れることは決して無い。大島本ほか、現在一般に読まれている青表紙本だけでなく、河内本や、多くの別本でも同様である。 従来、別本の一つ「国冬本」だけが紫の上を地の文で「北の方」と表記する事例を持っていることが知られていた。ところが本写本も紫の上を地の文で「北の方」と表記する事例を持っていることが、大内英範によって明らかにされている。これを受けて、「紫の上を地の文で『北の方』と表記する」形の本文が、鎌倉時代の源氏物語(さらにはその元となった平安時代の源氏物語)において一定の地位を占めていた可能性が考えられるようになっている。
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