二本鎖の損傷
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/29 13:52 UTC 版)
分裂する細胞にとって、特に重大なDNA損傷の様式が、DNA二重ラセンの両方の鎖が切断されてしまう障害で、この障害を修復する機構には二種類ある。一つは一般に良く知られている相同組換えで、もう一つは非相同末端再結合である。 相同組換え(homologous recombination: HR)の場合、切断部の修復の際に用いる鋳型としてまったく同一か、よく似た配列をもつゲノムを利用する。この機構は細胞周期において、DNAの複製中か、または複製終了後の間において主に用いられると考えられている。 これは損傷を受けた染色体の修復が、新しく作成された相同な配列を持つ姉妹染色分体を利用することで可能になるからである。 ヒトゲノムでは繰り返し配列が多く、利用可能な同一な配列を多く含んでいる。これらの他の配列との間で交差して起こる組換えにおいては問題を起こすことが多く、結果として染色体の転座 (chromosomal translocation) や他の染色体再編成を引き起こすことがある。 この修復プロセスの原因である酵素的な機構は、減数分裂中の生殖細胞における染色体交差の原因である機構とほとんど同じである。 非相同末端再結合 (Non-Homologous End-Joining: NHEJ) は、本質的には損傷により生じた二つの末端をつなぐ機構であるが、このプロセスではDNA配列がしばしば失われるため、修復が変異の原因となることがある。 NHEJは細胞周期のすべての段階で実行可能であるが、DNA複製前の、姉妹染色分体を利用した相同組換えが不可能な段階では主として起こる。ヒトあるいは他の多細胞生物などの、遺伝子ではないDNA、いわゆる "ジャンクDNA"がかなりの部分を占めるようになったゲノムを持つ細胞においては、この変異を引き起こす修復も、姉妹染色体以外の配列との相同組換えに比べ、問題が少ない傾向にある。 また、NHEJにおいて利用される酵素的な機構は、B細胞において、免疫系の抗体産生における抗体の可変部領域遺伝子 (VDJ) の組替えで、RAG蛋白質 (RAG proteins) によって作られた切断点の再結合に利用されている。
※この「二本鎖の損傷」の解説は、「DNA修復」の解説の一部です。
「二本鎖の損傷」を含む「DNA修復」の記事については、「DNA修復」の概要を参照ください。
- 二本鎖の損傷のページへのリンク