不飽和脂肪酸の酸化経路
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/29 07:39 UTC 版)
いままで説明したβ酸化の機構はパルミチン酸やステアリン酸などの飽和脂肪酸 (炭素鎖が単結合のみでつながっている脂肪酸) のみに当てはまるものである。しかし、動物や植物のトリアシルグリセロールやリン脂質に含まれる脂肪酸の多くは不飽和脂肪酸で、炭素鎖に1つ以上のシス型二重結合を持っている。しかしエノイルCoAヒドラターゼはΔ2-エノイルCoAのトランス型二重結合を水和する酵素であり、シス型の場合は基質になりえない。よって飽和脂肪酸の酸化に係わる4つの酵素のほかにさらに2種類の酵素が必要になる。この2つの酵素が触媒する反応について、cis-Δ9, cis-Δ12の二重結合を有するリノール酸を例に説明する。 リノール酸はリノレオイルCoA (リノレイルCoA) としてβ酸化のサイクルに入り、一連の反応を3回通過して3分子のアセチルCoAと、cis-Δ3, cis-Δ6に二重結合をもつジエノイルCoA (C12) を生成する。そしてΔ3, Δ2エノイルCoAイソメラーゼ (Δ3,Δ2-enoyl-CoA isomerase) の触媒する反応で異性化され、cis-Δ3二重結合がtrans-Δ2に変換される。こうして生成されたtrans,cis-Δ2,6ジエノイルCoAはβ酸化の酵素反応を一回受け、さらに第1段階の酵素であるアシルCoAデヒドロゲナーゼの作用を受けることで、trans,cis-Δ2,4ジエノイルCoA (C10) となる。このように2つの二重結合が1つの単結合によって隔てられた構造を共役ジエンといい、電子の非局在化により安定化されている。つまり水和しにくい。そこでNADPH依存性の2,4-ジエノイルCoAレダクターゼ (2,4-dienoyl-CoA reductase) が触媒する還元反応によって、1個の二重結合をもつtrans-Δ3-エノイルCoAに変換される。この生成物はΔ3, Δ2エノイルCoAイソメラーゼの基質となる。こうしてまた二重結合がΔ2の位置に変換され、引き続きβ酸化の反応を通過する。最終的にアセチルCoAが9分子生産される。 オレイン酸 (C18) など二重結合が1つだけある脂肪酸の場合、2,4-ジエノイルCoAレダクターゼが働く必要がないため、エノイルCoAイソメラーゼによる異性化のみを受ける。また、二重結合がトランス型となっているトランス脂肪酸は異性化する必要すらなく、β酸化により代謝される。
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