ラクトースオペロンの変異
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/29 23:09 UTC 版)
「ラクトースオペロン」の記事における「ラクトースオペロンの変異」の解説
遺伝子の正常な塩基配列を変えると本来起こりえない異常な現象が現れる。これを変異と呼ぶが、ラクトースオペロンにおける変異由来の異常現象をまとめる。 オペレーターの変異は構造遺伝子を全く発現させないか、さもなくば負の制御を受け付けなくして常に引き起こす。前者を非誘導型変異 uninducible mutation、後者を構成的変異 constitutive mutation という。オペレーターの構成的変異はlac リプレッサーが結合できなくなるのが原因だ。直接つながっている遺伝子に働きかける(シスに働く cis-acting)ため、オペレーターは細胞内に対立遺伝子が存在していても影響されない。このような遺伝子の変異をシス優性 cis-dominant であるといい、ほかにいくつかラクトースオペロンがあってもそこでの正常・異常に左右されない。オペレーターの変異はあくまで隣の構造遺伝子にのみ及ぶ。 構成的変異はlac リプレッサーを生み出すlacI 遺伝子の変異(lacI -)でも起こるが、こちらは細胞内にあるすべてのラクトースオペロンに影響する。それゆえトランスに働く trans-acting といわれるが、シスに劣性であり、正常な遺伝子(lacI +)を導入すれば負の制御は回復する。対してシス優性のオペレーター変異は無効にならない。このことはラクトースオペロンの構成的変異がどの遺伝子によるものかを調べるのに役立つ。 ラクトースオペロンの非誘導型変異は遺伝学的に2つに分類される。一つはプロモーターに対してのもので、シス優性である。もう一つは、lac リプレッサーが誘導因子と結合しなくなることによるもので、lacI Sと表記する。この変質リプレッサーは正の制御を無視し、オペレーターと常に結合する。活性因子も正常なlac リプレッサーもこれを引き離すことはできない。 このように、lac リプレッサーは変異によりさまざまな派生型が存在するが、四量体であるため異なる種類のサブユニットが会合することもある。このようなヘテロ(異種)多量体はしばしば独自の性質を持つ。この特性を対立遺伝子間相補性 interallelic complementation と呼ぶ。ある種のリプレッサー変異では負の相補性 negative complementation を起こし、例えばlacI-dとlacI+遺伝子の組み合わせで見られる。lacI-dはオペレーターに結合できないlac リプレッサーを生産し、lacI-と同じく負の制御に役立たない。前述したように本来トランスに働く遺伝子の変異は劣性であるが、lacI-dは正常なlacI 遺伝子があっても負の制御を喪失させる。原因は、産生された「悪い」サブユニットは自身だけでなく、四量体の一部として「良い」サブユニットがオペレーターに結合することも妨げるためだ。このような、トランスに働く遺伝子における、野生型に対して優性な変異をドミナントネガティブ dominant negative 変異と呼ぶ。
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