マウスiPS細胞作製法の改良
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/15 17:13 UTC 版)
「人工多能性幹細胞」の記事における「マウスiPS細胞作製法の改良」の解説
Fbx15遺伝子の発現によって選別され樹立されたiPS細胞(Fbx15-iPS細胞)は、細胞形態や増殖能、分化能などにおいてES細胞と極めて良く似ていたが、一部の遺伝子の発現パターンや、DNAメチル化パターンなどはES細胞と異なっていた。また、ヌードマウスの皮下に移植すると3胚葉成分からなる奇形腫をつくることができるが、胚盤胞に注入してもiPS細胞由来の細胞が混在したキメラマウスは産まれなかったことから、ES細胞と同様の分化万能性を持つとは言い難かった。山中らは、ES細胞の万能性維持に重要なNanog遺伝子の上流にGFPおよびピューロマイシン耐性遺伝子を挿入した遺伝子組換えマウス(英語版)を作製し、このマウス由来の線維芽細胞に上述の4遺伝子を導入して、Nanogの発現レベルによってiPS細胞を選別、樹立した。2007年7月に発表されたこの改良iPS細胞(Nanog-iPS細胞)は、最初のiPS細胞(Fbx15-iPS細胞)に比べてよりES細胞に近い遺伝子発現パターンを示し、胚盤胞への注入により成体キメラマウスを得ることが可能で、さらにキメラマウスとの交配で次世代の子孫にiPS細胞に由来する個体が産まれること (germline transmission) が確認された。時をほぼ同じくして、マサチューセッツ工科大学 (MIT) のルドルフ・イエーニッシュらのグループ、ハーバード大学ハーバード幹細胞研究所のコンラッド・ホッケドリンガー (Konrad Hochedlinger) とカリフォルニア大学ロサンゼルス校 (UCLA) のキャスリン・プラース (Kathrin Plath) らのグループからも、同様の研究成果が報告された。 遺伝子導入によって多能性を獲得した細胞を選別する際に、Fbx15やNanogなど特定の遺伝子の発現を指標とする場合、GFPや薬剤耐性遺伝子などのレポーター遺伝子を特定の遺伝子座に組み込んだトランスジェニックマウスやノックインマウスなどの遺伝子改変動物が必要となる。しかし、ヒトの細胞に対してこれらの遺伝子改変技術は適用できないため、ヒトiPS細胞の樹立に際して大きな障害となっていた。2007年8月、ヤニッシュらのグループは、野生型マウス由来の線維芽細胞に4遺伝子を導入後、細胞の形態変化によってiPS細胞を選別、単離することに成功し、遺伝子改変マウスを用いなくてもiPS細胞が樹立できることを報告、ヒトiPS細胞の樹立へと道を拓いた。同年9月には、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のミゲル・ハマーリョ-サントス (Miguel Ramalho-Santos) らのグループも、薬剤による選別を行わず、c-Mycの代わりにn-Mycを、またレトロウイルスベクターの一種であるレンチウイルスベクターを用いてiPS細胞を樹立した。 iPS細胞の癌化への対策についても、様々な方法が試みられている(後に詳述)。
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