マイナス空間論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/23 06:28 UTC 版)
もう一つは、寺院の構造から思いついたという「マイナス空間」の音楽論である。芥川は、西洋的な建築が何もない空間に材料を積み上げて作る加算的・塑像的な「プラスの空間」であるとすれば、エローラ石窟群は元から存在する巨大な岩盤を上から掘り下げて作った消去的・彫刻的な「マイナスの空間」であるととらえた。そして、これを音楽創作へ応用し、静寂の中に鳴らす音を選択し積み上げて行く従来の加算的な西洋の作曲法に対し、音の塊から消去法的に鳴らさない音を選択していく「マイナスの音楽」を発案した。これは、半ば開拓しつくされ停滞している作曲法に新たな可能性を見出す事が出来ないかという問題提起であった。しかも、男女を陽と陰に相当させ、このプラスマイナス論をエロチズムに結びづけることができた。 帰国後芥川はこの理論を実践すべく新しいオルガンを考案したが、この楽器は試作してそれきりになってしまった。これはスイッチを入れ起動すると全ての音が鳴り、鍵盤を押すとその音が消えるオルガンであった。谷川俊太郎はこのオルガンを、当時流行していた怪獣映画のラドンともじって『オルガドン』と命名した。 『エローラ交響曲』や『弦楽のための陰画』ではマイナス空間論に基づいた作曲がされていることを作曲者は示唆している。しかし、それが具体的な作曲技法に現れているものなのか、それとも概念的に示したに留まるのかは不明である。秋山邦晴は『エローラ交響曲では、正直なところ、具体的にはどのようにそれ(マイナス空間論)が実現されているのかは、ぼくにはよくわからない。むしろ、かれの観念のなか、想像力のなかで結びついた理論であり、コンセプトだったのだろう。』と述べている。
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