ペプチド基のシス/トランス異性体
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/05 02:49 UTC 版)
「ペプチド結合」の記事における「ペプチド基のシス/トランス異性体」の解説
窒素原子上の孤立電子対が大きく非局在化することで、ペプチド基は部分二重結合(英語版)特性を持つ。この部分二重結合によって、アミド基は平面的になり、シス型またはトランス型の異性体が存在する。タンパク質のアンフォールド(展開)状態では、ペプチド基は自由に異性化して両方の異性体を採用することができるが、しかし、フォールド状態では、各位置で単一の異性体しか採用されない(まれな例外を除く)。ほとんどのペプチド結合では、トランス型が圧倒的に好まれる(トランス型とシス型の比は約1000:1)。ただし、X-Proペプチド群の比率は、約30:1の割合で存在する傾向がある。これは、おそらくプロリン(Pro)の C α {\displaystyle \mathrm {C^{\alpha }} } 原子と C δ {\displaystyle \mathrm {C^{\delta }} } 原子の間の対称性により、シス型とトランス型異性体のエネルギーがほぼ等しくなるためと考えられる(下図参照)。 ペプチド基( C α − C ′ − N − C α {\displaystyle C^{\alpha }-C^{\prime }-N-C^{\alpha }} の4つの原子で定義される)に関連する二面角を ω {\displaystyle \omega } とし、シス型異性体(シンペリプラナー配座)では ω = 0 ∘ {\displaystyle \omega =0^{\circ }} 、トランス型異性体(アンチペリプラナー配座)では ω = 180 ∘ {\displaystyle \omega =180^{\circ }} となる。アミド基は、シス型とトランス型の間でC'-N結合を中心に、ゆっくりではあるが異性化することができる(室温で τ ∼ {\displaystyle \tau \sim } 20秒)。遷移状態 ω = ± 90 ∘ {\displaystyle \omega =\pm 90^{\circ }} では、部分二重結合を切断する必要があるため、その活性化エネルギーは約80 kJ/mol(20kcal/mol)となる。ただし、ペプチド基を疎水性環境に配置したり、X-Proペプチド基の窒素原子に水素結合を供与するなど、単結合型に有利な変化を与えることで、活性化エネルギーを下げる(異性化を触媒する)ことができる。活性化エネルギーを低下させるこれらの2つのメカニズムはどちらも、X-Proペプチド結合のシス-トランス異性化を触媒する天然の酵素であるペプチジルプロリルイソメラーゼ(PPIases)にも見られる。 立体配座のタンパク質フォールドは、通常、シス-トランスの異性化(10-100秒)よりもはるかに速い(通常10-100ミリ秒)。いくつかのペプチド基の非天然異性体は、立体配座フォールディングを大きく混乱させ、天然異性体に到達するまでフォールディングを遅らせたり妨げたりする。しかし、すべてのペプチド基が同じようにフォールディングに影響を与えるわけではなく、他のペプチド基の非天然異性体はフォールディングに全く影響を与えないこともある。
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