プロトンキノンサイクル機構
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/23 10:11 UTC 版)
「ユビキノン」の記事における「プロトンキノンサイクル機構」の解説
呼吸鎖複合体III(シトクロムbc1複合体)においては、複合体Iや複合体IVとは異なる機構でプロトンが膜外に輸送される。複合体I、IVにおいてはプロトンポンプ機構と言う、輸送を受けるプロトンが膜内から膜外に輸送されるのみである。しかしながら複合体IIIにおいてはプロトンキノンサイクル機構という独自の輸送機構を用いている。 プロトンキノンサイクル機構とは、膜内部においてプロトンが消費され、その還元力を使用して膜外側でのプロトンの放出が見られる現象である(この反応をスカラー反応と言う)。実際輸送を受けるプロトンは膜内から放出されるわけではなく、見かけ上そのように見えるだけなのでプロトンポンプ機構とはことなる機構であることが理解できる。その素反応の詳細は、以下の反応ステップからなる。 複合体IIIのシトクロムbに存在する、膜外側に存在するユビキノール酸化部位 (QP部位あるいはQO)にてユビキノールが酸化される。 ユビキノールから2電子が抜き取られ、同時に膜外側へプロトンが2分子放出される。その2電子は異なる方向にそれぞれ伝達される。その内約は以下の通りである。1個目の電子は、可動性リスケ鉄硫黄タンパク質を経て、シトクロムc1、シトクロムcの順番に電子伝達される。 2個目の電子は、シトクロムbに存在する2つのヘム(ヘムbL, bH)を経て膜内側に存在するユビキノン還元部位(QN部位あるいはQI部位)に電子伝達される。 QN部位に電子が2電子伝達されることにより、ユビキノンは2電子還元を受けてユビキノールとなり、再びプロトンキノンサイクル機構に組み込まれる。 以上が、プロトンキノンサイクル機構の反応であるが、この中でも特に優れた機構なのが可動性リスケ鉄硫黄タンパク質の関与する、電子伝達の方向性を変化させる過程である。それらの過程については構造生物学的研究より、以下のモデルが提唱されている。 可動性リスケ鉄硫黄タンパク質はc1側、中間型、b側の3つのコンフォメーションを持っており、酸化還元を受けない状態では、中間型を呈する。 ユビキノールがQN部位に結合し、酸化を受けてプロトンを放出する。 その時の、余剰の電子がリスケ鉄硫黄タンパク質にb側の状態を取らせ、1電子を鉄硫黄クラスターに受け取らせる。 可動性リスケ鉄硫黄タンパク質は酸化還元電位の高いシトクロムc1側の状態を取りヘムc1に電子伝達が行われ、シトクロムcにそのまま電子伝達される。 1電子酸化を受けたセミキノン型のキノンはヘムbLによって酸化を受け、プロトンを1つ膜外へ放出する。 そしてヘムbLに電子伝達が行われ、ヘムbHを経てQN部位にてユビキノン還元反応を起こす。 リスケ鉄硫黄タンパク質は酸化還元反応を終了し中間型に戻る。 以上が、プロトンキノンサイクル機構の主格を担うスイッチング反応である。極めて複雑な反応であるが、収支式が理解への一助となる。 2UQred + 4Cytcox → 2セミキノン(SQ) + 4Cytcred + 2H+out 2SQ + UQox) → 2UQox + UQred + 2H+out
※この「プロトンキノンサイクル機構」の解説は、「ユビキノン」の解説の一部です。
「プロトンキノンサイクル機構」を含む「ユビキノン」の記事については、「ユビキノン」の概要を参照ください。
- プロトンキノンサイクル機構のページへのリンク