ビール・キッシュゲーム
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/14 15:20 UTC 版)
「シグナリングゲーム」の記事における「ビール・キッシュゲーム」の解説
以下のゲームでは、ある乱暴者 (R) が、客 (G) と決闘する (duel) ために朝の酒場にやってくる。乱暴者はできれば弱い相手 (tW) と戦いたい、というのもそうすれば反撃をされることもなく、彼には 1 の利益になるからである。しかし酒場にいるのは強いタイプ (tS) でもありうる。もし相手をするのが強いタイプになったならば負け、乱暴者は -1 の不利益になるだろう。そこで、乱暴者 R には逃走する (flee) ための機会もある。 乱暴者 R は、弱いタイプと強いタイプとを判別できないが、この人物 (客 G) が酒場で朝食に何を食べたかは観察できる。ここで客はビールの朝食 (B) とキッシュの朝食 (Q) とで選ぶことができる。ここでまた、弱いタイプはキッシュの朝食、強いタイプはビールの朝食をとることを好むとしよう。両タイプとも、自分の好きな朝食を食べたならば個人的に利得 1 を得、そうでない朝食を食べることになったならば損失 −1 を受けるとする。弱いタイプも強いタイプも、乱暴者 R と殴りあったならば個人的損失 −1 を被るので、殴りあいになるのは避けたい。もし乱暴者 R が逃走したならば、客 G は、弱いタイプであろうと強いタイプであろうと、不愉快な乱暴者がいなくなったために利得 4 を得る。 乱暴者 R が弱いタイプ tW である確率 p は、外生的に与えられているものとする。ここではそれを 0.5 とする。 ゲームの進行: 第 1 段階: 自然 N が客 G のタイプを選び、確率 p で弱いタイプ tW とする。 第 2 段階: 客 G は自分のタイプ tj に応じた戦略を選ぶ:客 G のタイプ tW が好きなのは Q である。しかし、乱暴者 R は Q を観察したならば決して決闘を避けることがなく、また B を観察したならば厳密に決闘を避けるであろうことを知ったならば、次が成りたつとき、tW は逸脱の誘因をもつ: α ⋅ U G ( t W , B , flee ) > β ⋅ U G ( t W , Q , duel ) ⟺ α ⋅ 3 > β ⋅ 0 ⟺ 3 α > 0 {\displaystyle {\begin{aligned}&\alpha \cdot U_{\rm {G}}(t_{\rm {W}},\mathrm {B} ,{\mbox{flee}})>\beta \cdot U_{\rm {G}}(t_{\rm {W}},\mathrm {Q} ,{\mbox{duel}})\\\Longleftrightarrow \;&\alpha \cdot 3>\beta \cdot 0\\\Longleftrightarrow \;&3\alpha >0\\\end{aligned}}} 客 G は、自分がタイプ tS のとき、厳密に行動 B をとる。 第 3 段階: 乱暴者 R は、観察されたシグナル mk に従って、決闘するか逃走するかを決定する:乱暴者 R は、もし区別できるならば、Q が観察されしだい厳密に決闘 duel をプレーする。 乱暴者 R は、もし区別できるならば、B が観察されしだい厳密に逃走 flee をプレーする。 これによって、弱いタイプは、R がシグナルによってタイプを 100 % わかってしまうことのないように、ビールの朝食を選び、強いタイプのフリをして、それによって戦いを避けるということができる。そこから R は α と β の信念を形成し、弱いタイプがビールの朝食を選んだ可能性と、強いタイプがキッシュの朝食を選ぶ可能性が、それぞれどの程度かをそれによって見積もる。 結果として、この例では 2 つの一括均衡がある。(((B, B), (flee, duel)), α ≤ 0.5, β ≥ 0.5) と (((Q, Q), (duel, flee)), α ≥ 0.5, β ≤ 0.5) である。 この 2 番めの例は非常に非現実的である。というのも、強いタイプがキッシュを朝食に食べる誘因はほとんどない。すると乱暴者のほうは、0.5 以上の確率で強いタイプがキッシュを食べているということは決して信じなくなる。数学的には、支配戦略の消去を用いてもこの 2 番めの均衡は残ってしまう。趙とクレプスにより発展させられた、直観的基準 (Intuitive Criterion, Intuitiven Kriterium) を必要とする。
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