ヒトでの調節
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/07 07:48 UTC 版)
サイクリンDは分裂促進因子の受容体の下流経路であるRas/MAPK経路、β-カテニン-TCF/LEF経路、PI3キナーゼ によって調節される。MAPキナーゼであるERKは下流の転写因子Myc、AP-1、Fos を活性化し、これらがCDK4、CDK6、サイクリンDの遺伝子の転写を活性化し、リボソームの生合成を増加させる。RhoファミリーのGTPアーゼ、インテグリン結合キナーゼ、FAKは、インテグリンに応答してサイクリンD遺伝子を活性化する。 p27Kip1とp21Cip1は、CDKを負に調節するサイクリン依存性キナーゼ阻害因子(CKI)である。しかしながら、これらはサイクリンD-CDK4/6複合体の促進因子でもある。p27Kip1とp21Cip1がなければ、サイクリンDのレベルは低下し、複合体は検出されなくなる。 真核生物では、翻訳開始因子eIF4Eの過剰発現はサイクリンDのタンパク質レベルを増加させ、核外のサイクリンDのmRNAの量を増加させる。これはeIF4EがサイクリンDのmRNAの核外への搬出を促進するためである。 サイクリンDの不活性化または分解による阻害は、細胞周期からの脱出と分化をもたらす。サイクリンDの不活性化は、INK4ファミリー(p15INK4b、p16INK4a、p18INK4c、p19INK4dなど)のようなCKIによって開始される。INK4タンパク質は、RasやMycなどの過剰発現による細胞増殖ストレスに応答して活性化される。INK4はサイクリンD依存的CDKに結合し、複合体全体を不活性化する。また、GSK3β(英語版)はサイクリンDタンパク質のスレオニン286番残基をリン酸化して阻害し、分解を誘導する。GSK3βはリン酸化によってPI3キナーゼ経路による負の調節を受けるが、これは成長因子がサイクリンDを調節する経路の1つである。このように、細胞内のサイクリンDの量は、転写誘導、タンパク質の安定化、核移行、CDK4とCDK6との結合などさまざまな調節を受けている。 光線力学療法によるp21CIP1/WAF1の誘導によって、サイクリンD(特にサイクリンD1、2)が阻害されることが示されている。サイクリンDの阻害によって、CDK2とCDK6の阻害も誘導される。これらすべての過程の結果、細胞周期はG0/G1期で停止する。 DNA損傷は2通りの方法でCDKに影響を与える。DNA損傷後、サイクリンD(サイクリンD1)はプロテアソームによって迅速に一過的な分解が行われる。分解によってCDK4との複合体からp21Cip1が放出されることで、p53非依存的なCDK2の不活性化が行われる。もう1つの方法はp53依存的なp21Cip1の誘導によってサイクリンE-CDK2複合体を阻害するものである。健康な細胞では野生型のp53はプロテアソームによってすぐに分解されるが、DNA損傷時には安定化されて蓄積する。
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