タルスキとポパー 真理の意味論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/12/10 16:16 UTC 版)
「真理」の記事における「タルスキとポパー 真理の意味論」の解説
(画像左)意味論的真理概念で真理論に革命的変化をもたらしたタルスキ(画像右)意味論的真理概念と科学的実在論を結びつけたポパー アルフレッド・タルスキは、『形式論理における真理概念』(1931年)において、形式言語による真理述語の導入を提案し、それが可能になる言語の条件を研究した。彼によれば、真理概念の定義は、従来の対応説的な真理観に反せず、自己言及のパラドックスをさけることができる、形式的に正しいものでなければならない。そこから彼は、真理概念は文に適用され、特定の言語に相対的に定義され、意味論の基礎になっていることが必要であるとする。「Alice is alive.」という文について真偽を考えた場合、従来の対応説的な真理観からは、少なくともAliceが誰かという事実がわからないと真偽の判断はできないことになろう。しかし、事実がどうであれ、文が真になる条件を形式的に考えることはできるはずである。それが『「Alice is alive.」が真であるのは、アリスが生きているときであり、かつ、そのときだけである。』というものである。彼は、このような条件を真理条件と呼び、真理条件の記述を「(T)形式の同値」と呼んだ。『〜』内の文をT文と呼ぶが、T文内の「Alice is alive.」は英語ではなく、日本語である。なぜなら、その文に引き続く「〜が真であるのは、アリスが生きているときであり、かつ、そのときだけである。」という文が日本語だからである。このように真理概念は特定の言語に相対的に定義されなければならない。T文内の「Alice is alive.」を対象言語というが、その文に引き続く「〜が真であるのは、アリスが生きているときであり、かつ、そのときだけである。」は対象言語ではなく、対象言語の真偽を区別するためのメタ言語である。このように言語とメタ言語を区別することにより自己言及のパラドックスを避けることができる。真理概念が意味論の基礎になるというのは以下のようなことである。英語を全く理解しない日本人(A)が英語を理解する日本人(B)に「Alice is alive.」の意味を質問する場合を想定すると、Bは、『「Alice is alive.」が真であるのは、アリスが生きているときであり、かつ、そのときだけである。』と答える。Aは、Aliceがアリスであり、生きているものであることを理解するかもしれないが、人間なのか動物なのかを理解しないかもしれない。そこで、Aが「Alice is animal.」と質問すると、Bは、『「Alice is animal.」が真であるのは、アリスが動物であるときであり、かつ、そのときだけである。したがって、「Alice is animal.」は偽である。』と答える。そのような問答を続けていけば、Bはいつか『「Alice is alive.」の意味を特定できるはずである。彼は、このような発想に従って数学上のやや特殊ないくつかの言語についてその平叙文が真になる条件を記載してみせた。彼のこのような方法は、応用のきく発展性のあるものだったので、以後ソール・クリプキ、ドナルド・デイヴィッドソンらが研究を進めている。 カール・ポパーは、タルスキの真理意味論と科学的実在論を結びつけた。彼は、文については真理意味論を継承しつつも、ある科学的理論は常に反証の危険を潜在的に有しており真理であることを確定することはできないが、真理に向かっての基準は存在し、その限りで科学的な真理は存在するという。彼は、実在論の立場に立ち、実在をわれわれの認識から独立したものとしつつも、実在を近似的に表現した理論という形での対応は認めることができるとし、開かれた社会における討論によりより優れた理論が出現し、やがて客観的な真実へと向かって収束していくという。
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