タマーニ
タマーニ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/19 03:06 UTC 版)
黒海のひなびた港町・タマーニ(ロシア語版、英語版)で、俺はひどい目に遭った。 公務の道中タマーニに寄ったが、泊まる所がどこにも無い。分隊長をどやしつけ、やっと案内されたのが、海辺のみすぼらしい小屋だった。母屋の住人は、盲目の少年と老婆だけだ。 真夜中に人の気配を感じた俺は、それを追うように外へ出た。例の少年が包みを抱えて海へと降りてゆく。海岸には女がいて、何か話し始めたが、昼間は俺に小ロシア方言を使っていた少年が、今はきれいなロシア語を話している。沖から小舟が近づき、男が降り立った。ヤンコЯнкоというらしい。3人は小舟から何か運び出し始めた。 翌日、例の夜中の包みのことで、俺は少年を老婆の前で問い詰めたが、これが命取りとなった。 神秘的な歌を歌う娘が現れた。俺は、昨夜も海岸で同じ歌が聞こえていたのを思い出した。俺は夜中に見た一部始終を娘に話してやったが、これも裏目に出た。少年も娘も老婆も、密輸業者の一味だったのである。 そうとも知らぬ俺は、誘われるままに、夜の海岸へ出て、娘と2人で小舟に乗った。が、沖合へ出ると、娘は甘い言葉を囁きながら、俺の腰のピストルを海へ落とした。俺は泳げない! 娘は俺を突き落とそうとする。必死でもみ合った挙句、俺は娘を海に落とし、這々の体で岸辺に辿り着いた。 娘は海岸に泳ぎ着いていた。そこへ小舟が近づき、ヤンコが降りて来た。帽子はタタール帽だが、髪型はコサック風だ。ベルトの下にナイフが光っている。娘は何か話し始めた。「もうおしまいだよ」- 見られたんだよ、と話しているらしい。暫くすると少年が袋を背負って現れ、3人は小舟に積み込みを始めた。そしてヤンコは「これからは、よその土地で商売をするさ。もうここには来られないからな」と、少年に小銭を渡し、娘を小舟に乗せて小さな帆を上げた。岸からの風に乗って、白帆は暗い波間へとみるみる遠ざかって行った。 小屋に戻ると、金入れ箱から短剣に至るまで、俺の金目の物は、すべて消えて無くなっていた! みな夜中に少年が持ち去っていたのだ。
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