スプラ面型とアンタラ面型
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/06/19 15:23 UTC 版)
「ウッドワード・ホフマン則」の記事における「スプラ面型とアンタラ面型」の解説
1,3-ペンタジエンにおいて5位の水素が1位の炭素上に転位するようなシグマトロピー転位を考える。この時、反応の仕方としては水素が1,3-ペンタジエンの π 軌道の節面に対して最初に存在したのと同じ側の面内で移動するタイプの反応と節面をはさんで反対側の面へ移動するタイプの反応が考えられる。軌道相関図を描いてみると基底状態においては前者は対称許容であり、後者は対称禁制であることがわかる。このように同じ分子の反応であっても軌道の空間的な相互作用の仕方によって対称許容となったり対称禁制となったりする。そのため、反応が対称許容であるか対称禁制であるかを論じるためには軌道の空間的な相互作用の仕方についても指定する必要がある。 ウッドワードらは、この相互作用の仕方を以下のような用語によって指定することを提唱した。 π 軌道についてはその節面に対して一方の側だけで他の軌道と相互作用する場合スプラ面型 (suprafaicial)、両方の側だけで相互作用する場合アンタラ面型 (antarafacial) という。 σ 軌道については、その結合の内部同士または外部同士のローブで他の軌道と相互作用する場合スプラ面型、内部と外部両方のローブで相互作用する場合アンタラ面型という。 孤立電子対の軌道については、一方のローブだけで他の軌道と相互作用する場合にはスプラ面型、両方のローブで他の軌道と相互作用する場合にはアンタラ面型という。 そして、ウッドワードらはこれらの指定の仕方を用いると以下の場合に限って反応が対称許容となることを示した。(m, n は負でない整数) 基底状態(熱反応)におけるペリ環状反応は、電子数 4m + 2 のスプラ面型に相互作用する反応要素の数と、電子数 4n のアンタラ面型に相互作用する反応要素の数の合計が奇数であるとき対称許容である。 1電子励起状態(光反応)におけるペリ環状反応は、電子数 4m + 2 のスプラ面型に相互作用する反応要素の数と電子数 4n のアンタラ面型に相互作用する反応要素の数の合計が偶数であるとき対称許容である。 例えばエチレン2分子からシクロブタンができる反応においては、電子数2の π 軌道2つが反応に関与している。立体的にアンタラ面型の相互作用は起こらずスプラ面型に相互作用するので、電子数 4m + 2 のスプラ面型に相互作用する反応要素の数は2、電子数 4n のアンタラ面型に相互作用する反応要素の数は0で、よってそれらの合計は2、つまり偶数となる。そのためこの反応は光反応において対称許容である。 また、1,3-ペンタジエンのシグマトロピー転位では4電子のジエン部分の π 軌道と2電子の転位する水素と炭素との σ 結合が関与している。水素が π 軌道の節面に対して最初に存在したのと同じ側の面内で移動する場合、ジエン部分の π 軌道も炭素と水素の σ 軌道もスプラ面型に関与する。電子数 4m + 2 のスプラ面型に相互作用する反応要素の数は1、電子数 4n のアンタラ面型に相互作用する反応要素の数は0で、それらの合計は1、つまり奇数となり、熱反応で対称許容となる。逆に水素が π 軌道の節面に対して最初に存在したのと同じ側の面内で移動する場合、ジエン部分の π 軌道はアンタラ面型、炭素と水素の σ 軌道はスプラ型に関与する。電子数 4m + 2 のスプラ面型に相互作用する反応要素の数は1、電子数 4n のアンタラ面型に相互作用する反応要素の数は1で、それらの合計は2、つまり偶数となり、光反応で対称許容となる。 以上のようにして、あるペリ環状反応が起こりうるか、起こりえないか、またその立体特異性が予測できる。 (注)ホフマン則 (Hofmann rule) は、ホフマン脱離の生成物の選択性を予測するもので、ウッドワード・ホフマン則とは関係ない。
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