アウローラ_(グエルチーノ)

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アウローラ (グエルチーノ)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア（Wikipedia）』 (2025/04/29 22:52 UTC 版)

『アウローラ』

イタリア語: Aurora 英語: Aurora
作者	グエルチーノ
製作年	1621年
種類	フレスコ画
寸法	1,055 cm × 510 cm (415 in × 200 in)
所蔵	カジーノ・ディ・ヴィッラ・ボンコンパーニ・ルドヴィーシ（英語版）、ローマ

『アウローラ』（伊: Aurora、英: Aurora）は、イタリアのバロック絵画の巨匠グエルチーノが1621年に制作した天井画 (縦5メートル10センチ、横10メートル55センチ) ^[1]で、それまで油彩によるキャンバス画を制作していた画家が初めて描いた大規模なフレスコ画である^[2]。ボローニャ派の巨匠グイド・レーニが1614年にパッラヴィチーニ＝ロスピッリオージ宮殿（英語版） (ローマ) に隣接する庭園邸カジーノ・デッラウローラ (Casino dell'Aurora) を装飾するために描いた『アウローラ』^[3]に対抗して描かれた^[2][4]。グエルチーノをローマに招聘したルドヴィーシ家（英語版） 出身のグレゴリウス15世 (ローマ教皇) によりカジーノ・ディ・ヴィッラ・ボンコンパーニ・ルドヴィーシ（英語版）を装飾するために依頼された絵画である^[2][4][5]。

主題

本作に描かれているアウローラは曙の女神であり、知性や創造性の光の到来を象徴する。太陽神アポロンと月の女神セレネは彼女の兄弟で、彼女は風の神々アネモイや「明けの明星」ポースポロスの母でもある^[6]。古代ギリシアの詩人ホメロス作の『イリアス』や『オデュッセイア』の中では「バラ色の指を持つ」と歌われるため、絵画ではバラを撒きながら天空を舞い、暁の光を広げる姿で描かれる。太陽神を先導する姿や凱旋車を御す姿などが、本作のようなバロック期の天井画に好んで描かれた^[6]。

作品

グイド・レーニ『アウローラ』 (1614年)、パッラヴィチーニ＝ロスピッリオージ宮殿（英語版）、ローマ

画面中央には、夜明けの空をさっそうと駆け回るアウローラが描かれている^[5]。バラ色の指を持ち、サフラン色の衣装を身に着けている彼女は、花をまき散らしながら世界に朝の訪れを告げている。彼女の馬車を曳くのはパエトン (輝かしきもの) とランボス (光) という名の2頭の馬である。左端では、ティトノスがアウローラの出発を見守っている。地平線は明るく輝き、朝の到来を思わせる^[5]。

本作以前のこの類の天井画は、巨大な額縁画が天井に描かれているかのように描くのが普通であった^[7]。レーニの『アウローラ』も、この「クアドロ・リポルタート（英語版）」と呼ばれる、下から見られることを考慮しない様式で描かれており、遠近法への関心も見られない^[3]。一方、グエルチーノは新機軸を打ち出し、絵ではなく実物がそこにあるかのように天井画を描いた。そのため、馬や馬車は横からではなく、下からまっすぐ仰ぎ見られたかのように描かれている^[7]。この様式は「クアドラトゥーラ」と呼ばれ^[2]、臨場感のあるトロンプルイユ (だまし絵) の効果を持つ^[2][5]。

グエルチーノは当時のローマでの流行に従い、アゴスティーノ・タッシに彼の専門の下から見上げた遠近法による偽の建築を描かせ^[2][4]、それを効果的な舞台装置として最大限に利用した^[2]。この描かれた偽の建築物は絵画空間の奥行きを倍増させ、絵画がめまいがするほど高い位置に描かれているように見せる^[2]が、実際の床から天井までの高さは5.65メートルである^[1]。グエルチーノの人物像を捉える視点は、大胆極まりないものとなっている。下から見上げたアウローラの馬車は全体が見え、馬は空の雲間を駆けている。空には様々な密度の雲が浮かび、その色彩、とりわけ豊かなニュアンスはローマでは革新的なものであった。空間の広がりを表現するため、情景の背後に広がる空は、いたるところで描かれた偽の建築モティーフを覆い隠している^[2]。

レーニは、自身の『アウローラ』で微動だにしない完全性と盛期ルネサンスの巨匠ラファエロを模範とした古典主義様式を用いた^[2][4]。一方、グエルチーノは、空気、色彩、音、感覚の動きに満ちた絵画的な力で拮抗している^[2]。

脚注

1. ^ ^{a b} “Casino Aurora. Ground floor. General view of Guercino's 'Aurora'”. Archivio Boncompagni Ludovisiサイト (英語). 2025年4月1日閲覧。
2. ^ ^{a b c d e f g h i j k} 『グエルチーノ展　よみがえるバロックの画家』、2015年、18-19頁。
3. ^ ^{a b} “Aurora di Guido Reni”. Casino dell'Aurora Pallaviciniサイト (イタリア語の英訳). 2024年12月9日閲覧。
4. ^ ^{a b c d} “Ceiling painting (detail)”. Web Gallery of Artサイト (英語). 2025年4月1日閲覧。
5. ^ ^{a b c d} 吉田敦彦　2013年、111頁。
6. ^ ^{a b} 「聖書」と「神話」の象徴図鑑　2011年、124頁。
7. ^ ^{a b} 『グエルチーノ展　よみがえるバロックの画家』、2015年、90頁。

参考文献

• 『グエルチーノ展　よみがえるバロックの画家』、国立西洋美術館、ボローニャ文化財・美術館特別監督局、チェント市、TBS、2015年刊行　ISBN 978-4-906908-12-7
• 吉田敦彦『名画で読み解く「ギリシア神話」、世界文化社、2013年刊行　ISBN 978-4-418-13224-9
• 岡田温司監修『「聖書」と「神話」の象徴図鑑』、ナツメ社、2011年刊行　ISBN 978-4-8163-5133-4

外部リンク

• Web Gallery of Artサイト、グエルチーノ『アウローラ』 (英語)

表 話 編 歴 グエルチーノ
宗教画	『聖カルロ・ボッロメーオのいる聖カタリナの神秘の結婚』 (1614-1615年) 『雀の聖母』 (1615-1616年) 『スザンナと長老たち (プラド美術館)』（1617年） 『キリストの死を悼む2人の天使』（1617-1618年） 『ロレートの聖母を礼拝するシエナの聖ベルナルディーノと聖フランチェスコ』 (1618年) 『幼児キリストを崇める聖母と悔悛の聖ペテロ、聖カルロ・ボッロメーオ、天使と寄進者』 (1618年) 『トラパニの聖アルベルトにスカプラリオを与えるカルミネの聖母』 (1618年) 『聖ペテロに鍵を渡すキリスト』（1618年） 『ラザロの復活』（1619年） 『ペリシテ人に捕えられるサムソン』（1619年） 『聖イレーネに介抱される聖セバスティアヌス』（1619年） 『放蕩息子の帰還 (ウィーン)』（1619年） 『聖ギヨームの着衣式』（1620年頃) 『ヨセフの息子たちを祝福するヤコブ』（1620年頃) 『聖マタイと天使』（1621-1622年) 『聖母被昇天』（1623年頃） 『バビロンの反乱の報告を受けるセミラミス』（1624年） 『放蕩息子の帰還 (ボルゲーゼ美術館)』（1627-1628年頃） 『聖母と祝福を授ける幼児キリスト』 (1629年) 『聖母のもとに現れる復活したキリスト』（1628-1630年） 『キリストとサマリアの女』 (1640-1641年頃) 『洗礼者聖ヨハネ』 (1644年) 『キリストの割礼』 (1646年) 『ダヴィデを攻撃するサウル』 (1646年) 『聖ペテロの涙』（1647年） 『ヨセフとポティファルの妻』（1649年） 『スザンナと長老たち (パルマ)』（1650年） 『説教する洗礼者聖ヨハネ』（1650年） 『ゴリアテの首を持つダヴィデ』（1650年頃） 『ロトとその娘たち』（1651年） 『聖カタリナの殉教』（1653年） 『サムソンとデリラ』（1654年） 『隠修士聖パウルス』（1652-1655年） 『悔悛するマグダラのマリア』（1652-1655年） 『ハガルとイシュマエルを追放するアブラハム』（1657年） 『キリストの鞭打ち』（1657年） 『聖母子の絵画を示す聖ルカ』（1662-1663年）
神話画・歴史画・寓意画	『マルシュアスの皮を剝ぐアポロン』（1618年） 『傷ついたタンクレーディを見つけるエルミニア』（1618年） 『巫女 (ボローニャ)』（1619-1620年) 『巫女 (チェント)』（1620年頃) 『アウローラ』（1621年) 『我アルカディアにもあり』（1618-1622年) 『ヴィーナスとキューピッド、マルス』 (1633年) 『絵画と彫刻の寓意』 (1637年) 『カトーの自害』 (1641年) 『瀕死のクレオパトラ』 (1648年頃)