『完全なる和解』
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「マリー・ド・メディシスの生涯」の記事における「『完全なる和解』」の解説
『完全なる和解』には、多頭のヒュドラに致命傷を与える擬人化された「神の法」と、それを見つめる「摂理」が画面前景に描かれている。瀕死のヒュドラは、ルイ13世の寵臣で1621年に病死したリュイヌ公シャルル・ダルベールに擬せられている。フランス軍最高司令官でマリーと対立していたダルベールの死は、マリーとルイ13世の関係改善に寄与するのではないかと思われたが、マリーの最大の敵であったコンデがすぐにダルベールの地位を継いだ。歴史的事実を汎化し、寓意や象徴を用いて慎重かつ曖昧に描き出すというルーベンスの技術は、とくに和平や和解を絵画に表現する際に極めて有効な技法だった。自身の寵臣で、マリーのパリ追放時に殺害されたアンクル侯爵コンチーノ・コンチーニの名誉挽回を願っていたマリーは、コンチーニの死に関係していたダルベールへの個人的反感を描かそうとした可能性もある。しかしながら、後に騒動の種が生じることを嫌ったルーベンスは具体的な描写を避け、寓意画としてこの作品を描き上げた。あくまでも芸術家としての王道を選んだルーベンスは、政治的主張を作品に盛り込むのではなく、美徳が悪徳を駆逐して平和裏に和解が訪れる情景としてこの作品を描いたのである。 ダルベールはルイ13世とマリーが激しく対立する原因となった人物であると見なされていた。そのため神々の怒りを買い、地獄に落とされたダルベールを激しく非難する作品だと解釈することは、さほど難しいことではない。『和解』ではルイ13世はアポロンに擬せられて描かれている。アポロンはヒュドラの死に無関心で、その死が当然のことであるかのように描かれている。ヒュドラに死を与える役割はアマゾネスのような姿の女戦士に任されている。なお、現在の作品にはその痕跡も残っていないが、『和解』の初期の下絵にはかつての寵臣を忘れ去り、女戦士と共に平然とヒュドラを虐殺していたルイ13世が描かれている。
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