『アングレームの条約』
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「マリー・ド・メディシスの生涯」の記事における「『アングレームの条約』」の解説
『アングレームの条約』には、神々の伝令メルクリウスが差し出すオリーヴの枝をにこやかに受け取るマリーが描かれている。二人の司祭は、ルイ13世が出した追放命令によって生じた両者の対立について、マリーが話し合いに応じる用意があることを意味している。ルーベンスはマリーを描くにあたっていくつかの技法を用い、明瞭な光の中に立つマリーが若き王の守護者であり、経験豊富な助言者であるかのように表現している。マリーの背後の台には、ミネルヴァの象徴である叡智と、勝利と苦難を象徴する月桂樹を手にした2人のプットの彫刻がある。この月桂樹はマリーの潔白を意味している。マリーの謙虚な、しかしながらすべてを悟ったような眼差しはマリーが持つ叡智を告げている。密接して描かれたマリーと司祭たちは、メルクリウスが象徴する不実なルイ13世側とは異なって、マリー側が誠実な立場であることを示唆する。ルーベンスは、メルクリウスがカドゥケウスを腿裏に隠すように持っている描写により、メルクリウスを不正直な存在であるという印象を持たせている。ルイ13世とマリーには未だにしこりがあるということを際立たせるために、司祭やメルクリウスが描かれているのである。マリーの足元で吠えている犬は、悪意を持って近づいてくる他者に対する警戒を意味する。様々な寓意と象徴が用いられ、複数の意味に解釈可能でつかみどころのない作品である『アングレームの交渉』に、ルーベンスはマリーを良識的で分別のある女性として表現、あるいは「誤った表現」で描いた。いずれにせよ、この作品のマリーは優しさに満ち、謙虚な母親であるとともに、生来の君主の威厳をもって描かれている。一連の『マリー・ド・メディシスの生涯』の作品の中でも、この『アングレームの交渉』がもっとも解釈が難しく、議論となってきた作品であり、定説となっているものもほとんどない。少なくとも確実であろうことは、マリーが自身の王権を主張してはいるが、それでもなお、母子の関係修復に向かって一歩目を踏み出した情景を描いた作品だろうということである。
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