「隠れ里」『聴耳草紙』
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/08 15:42 UTC 版)
シロミ山の「隠れ里」のことは「遠野物語」の中にも出て居るが、あれとは亦別な話をして見やう。此山の東南の麓の金沢と云ふ村に某と云ふ若者があつた。此男或時山へ行くと、どの辺の谷の奥果であつたか、とにかく未だ嘗つて見たことも聞いたこともない程大きな構への館に行き当つた。其家のモヨリは先づ大きな黒門があつた。その門を入つて行くと鶏が多く居た。それから少し行くと立派な厩舎があつて其中には駿馬が六匹も七匹も居た。裏の方に廻つて見ると炉には火がどがどが燃えてをり、常居へ上ると其所には炭火がおこつて居る。茶の間には何かのコガ(大桶)があり、座敷には朱膳朱椀が並べられて、其次の座敷には金屏風が立て廻されて、唐銅火鉢に炭火が取られてあつたが何所にも人一人居なかつた。さうして見て歩るくうちに、何となく恐ろしくなつて其男は逃げ帰つた。 (その男は少々足りない性質であつた。村の和野の善右衛門と云ふ家へ聟に来たが、或年の五月に田五人役とかで灰張りへ遣ると、一番上のオサの水口へ、五人役振りの灰を山積さして置いて来た。どうしてそんな事をしたと訊くと、なあに上のオサの水が、五人役の田にかゝるべから、同じ事だと言つたので離縁になつた。) (此話は其男の友人の村の百姓爺の大洞万三丞殿から聴いたものであつた。)
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